研究課題/領域番号 |
21K04660
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研究機関 | 大分工業高等専門学校 |
研究代表者 |
池田 昌弘 大分工業高等専門学校, 一般科理系, 講師 (80597667)
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研究分担者 |
安仁屋 勝 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (30221724)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超イオン導電体 / 短距離構造 / 中距離構造 / 空孔形成 / 非アレニウス型イオン伝導 |
研究実績の概要 |
超イオン導電ガラスにみられるような不規則系では、中距離構造がイオン輸送現象に重要な役割を果たしている。本研究の目的は、中距離構造の形成過程をモデル化し、固体中のイオン導電機構の本質を理解することにある。初年度の研究では、以下の1)、2)の成果が得られた。
1) ガラスにおける中距離構造と超イオン導電性の関係を理解するための手がかりとして、ガラス形成能に着目した。これは例えば、高エネルギー放射光実験では銀イオン拡散が試料の結晶化を誘発する懸念があるため、ガラス形成能は重要な指標になる。様々なガラス形成液体において、融点Tmよりも高い溶融状態で構造緩和のアレニウス温度TAが決定されている。このTAとTmの比は、ガラス形成能に対する一つの指針を与えることが他の研究で報告されており、また、多くのフラジャイル系ガラスにおいて、TAとガラス転移温度Tgの比であるTA/Tgは2.1を超えないことが確認される。代表者らが提案している結合強度・配位数揺らぎモデルの観点から、TA/Tgは2.1を上限にもつことが示された。
2) 従来の空孔形成理論を改良し、イオン結晶系のイオン伝導度に適用可能なモデルを提案した。このモデルによると、不純物濃度に依存する外因性伝導領域から、ほとんど濃度依存性を示さない内因性領域への遷移過程は連続的であることが示される。格子間イオンが可動イオンとしてイオン伝導に寄与すると考える当該モデルでは、電荷担体濃度と易動度が非線形に連結しており、内因性・外因性伝導領域間の連続遷移を記述する上で本質的である。現在、論文発表に向けて準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の遂行予定の順番と前後しているが、計画した内容どおりの課題に着手しているため。本研究では、イオン伝導における中距離構造の役割とその起源に対する理解を深め、理論的な基盤を構築していく。その第一段階として、初年度は低温領域と高温領域の挙動を結び付けることに着目し、定量的に議論可能な方法論が展開できた。次年度以降の予定研究の基礎固めができている。そのため研究の達成度としては、進捗状況はおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)の結果から、フラジャイル系に分類される超イオン導電ガラス系においても今回理論的に予想された1.5<TA/Tg<2.1の範囲に入ることが考えられる。これは、構造緩和と伝導緩和との間のデカップリン現象の観点から、中距離構造の形成機構を検討する手がかりになる。今後は、原子の離散集合とイオンの相関を検討していく。2)に関しては、提案した当該モデルでは、格子間イオンが可動イオンとしてイオン伝導に寄与すると想定している。イオン伝導度に変曲点をもつ物質系にも適用が可能になるようモデルを改良する。得られた成果は、国内外の会議や論文にて公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により、初年度に発表を計画していた国際会議への参加を取り止めた。そのため、当初旅費として計上していた分の次年度使用額が生じている。まだコロナ禍の影響が続いているため、状況を見ながら旅費、論文投稿料、消耗品の購入等で使用する。
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