研究課題
ヒトがん由来細胞株、マウス肝前駆細胞由来のがん幹細胞モデルを用いて、ホウ素取込量の測定と遺伝子発現解析を進めた。がん細胞株の遺伝子発現データベースを用いた比較解析から、細胞内に取り込まれるホウ素濃度と相関が高い遺伝子群を見出した。この中から特に高い相関がある2遺伝子を選び、ホウ素取り込み量の予測モデルを作成し、高濃度と判定する閾値を設定した。未試験のがん細胞株の実際のホウ素取込量を測定したところ10種類中7種類が判定予測と合致した。このことから、遺伝子発現量を基に取込量を予測できる可能性が示唆された。細胞内に取り込まれた新規ホウ素薬剤の濃度は、予備試験結果から想定していた細胞表面マーカー因子に加えて細胞内のホウ素滞留性に関与すると考えられる因子が大きく影響することが判ってきた。細胞内ホウ素の濃度だけでなく、細胞内局在によっては1細胞レベルで同じ濃度であっても、ホウ素中性子捕捉反応の効果を高めることが期待できる。抗BSH抗体を用いた免疫電子顕微鏡画像の観察より、新規ホウ素薬剤は核内および代謝に関わる細胞内小器官に多く蓄積することが分かり、高濃度と設定した閾値を下回る場合でもホウ素中性子捕捉反応によるがん細胞除去の可能性があることが分かった。予測モデルの構築に用いた2遺伝子のタンパク質レベルでの発現量とホウ素取込量を比較したところ相関性が高いことが分かった。これまでに乳がん細胞株、肝がん細胞株、血液がん細胞株の他、作製したがん幹細胞モデルにおいても2つの因子は新規ホウ素薬剤が細胞内に高濃度で蓄積するために重要な役割を果たすと考えられ、現在、治療に用いられているホウ素薬剤BPAと併用することができれば、多様な性質を有するがん細胞にホウ素(10B)を高濃度で行き渡らせることが可能だと考えられた。
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