研究課題/領域番号 |
21K04849
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
梅田 健一 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 特任助教 (60746915)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高速AFM / DNA / 染色体維持構造タンパク質 / コヒーシン / SMC5/6 / 生体機能動態 |
研究実績の概要 |
コヒーシンやコンデンシンに代表される環状のモータータンパク質であるSMCは染色体の形成過程において重要な役目を担うが、その分子レベルの原理に関して不明な点が多い。そのため、高速AFMを用いて、サブ分子レベルでの現象を可視化し、原理解明を行うことを目的として研究を行っている。先行研究により、コヒーシンは生体内において高濃度条件下に存在するが、こうした高濃度溶液中において、分子とDNAが多価結合することで、相分離を起こし液滴を形成することが明らかとなっており、実際に高速AFMを用いて同様の条件で計測を行ったところ、ローカルに分子とDNAが結合した凝集構造を可視化することができた。こうした凝集構造内でのダイナミクスを可視化する必要があるが、原子レベルで平坦なマイカ基板を用いて測定では、DNAと基板の間に隙間がないため、分子がトポロジカル結合する様子を可視化できない問題があった。そのため、表面ラフネスや表面電荷を調節可能な脂質膜試料を用いて実験を行った。その結果、コヒーシンをトポロジカル結合したDNAした観察を行い、分子がDNA上を一次元拡散する様子を可視化することができた。解析の結果、分子はDNA上のAT配列の集まった領域において滞在時間が長くなることが分かった。これは蛍光顕微鏡においても同様の報告がなされているが、100 bp以下の分解能において実証したのは本研究が初めてである。また、SMC5/6はコヒーシンよりも凝集性の高い性質をもつため、比較実験を行ったところ、コヒーシンとは異なり、二本のDNAを繋ぎ止めるような分子構造が観察された。また、一次元拡散するだけでなく、少し離れた位置にあるDNAにもホッピング移動できることが分かった。そのほか、現状の高速AFMでは可視化できないほど高速な拡散現象を可視化できるようにするために、新型の振幅計測器の開発を行い、論文を出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SMCはDNAを分子のリング構造内に貫通することで、DNAにトポロジカル結合するが、蛍光顕微鏡を用いた先行研究例では、DNAが宙に浮いた状態で実験を行うため、こうした結合反応をうまく可視化することができていた。一方で、高速AFM計測では、分子を基板に吸着させる必要があるため、基板がDNAと分子の結合を阻害してうまくいかないのではないという懸念があった。しかし、実際にやってみると、原子レベルで平坦なマイカ基板の場合には、予想していた通り、結合する過程を可視化することが難しかったが、分子レベルで表面ラフネスがあり、分子の非特異吸着を防ぐことが可能な脂質膜を用いることでうまくダイナミクスを可視化することができるようになった。脂質膜には、分子の反応効率を決める表面ラフネスや、DNAの吸着力を決める表面電荷密度を調節できるという大きな利点があるため、現在、様々な条件で実験を行っており、分子の反応効率が最大化される条件を検討している。ここで得られた知見は他のSMCにも適応することができるため、今後様々な条件下において計測を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
コヒーシンに関して、DNA上を拡散移動しながら、レプリケーションフォークを通過する事が知られるが、その分子的な描像が明らかではないため、こうした実験も行う。更に、共同研究先の遺伝研のグループにおいて、コヒーシンだけでなく、SMC5/6やコンデンシンの高純度な試料の調製にも成功しており、今後こうした試料の計測も行っていく。蛍光顕微鏡の先行研究ではATPとの反応によるループ押し出しなどの測定結果が報告されているが、高速AFMにおいてはまだわずかしか測定例が得られていない。更に実験条件を検討していくことで再現性よく観察できるようにする。また、SMCは相分離に伴い液滴を形成することが明らかとなっているが、流体的な性質のために溶液条件に応じて固さなどの物性が変化することが推測される。そのため、3Dフォースマップを用いて、定量的な計測も行っていく。
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