研究課題
本研究では,歯の中に照射の痕跡として残された炭酸ラジカル測定によって低線量計測法を開発することを目的としている。本手法が確立すれば,ヒトの記憶に頼った被ばく線量評価や,動物の移動の履歴を考慮しない計算手法による被ばく線量評価ではなく,対象個体の正味の被ばく線量を実測できるようになる。令和3年度は,①試料前処理法について,従来の5時間のアルカリ処理を2回,3回と繰り返すことで測定の妨害要因を取り除くこと,②ESRスペクトル上に現れる解析の妨害シグナルの原因がサンプルに含まれる黒色の粉末であることを突き止め,これを除去することで解析の妨害要因を取り除くことに成功した。令和4年度は,①解析に利用しているツールでは,ESR測定スペクトルのベースラインの変動が大きい場合に,スペクトルから評価対象の炭酸ラジカルの成分を抽出できないことが頻発したため,市販のツールを利用して新たな解析ツールを開発するとともに,②低線量を評価可能な線量計の開発を目的とし,個体差があり,量の確保が困難な歯のエナメル質ではなく,市販合成ハイドロキシアパタイトでも十分に線量計として利用可能であることを明らかにした。令和5年度は,①解析ツール開発では最大8成分のフィッティングを効率よく実施するアルゴリズムを開発するとともに,②市販の合成ハイドロキシアパタイトの検出下限線量がヒト乳歯とほぼ同程度の約100 mGyであることを明らかにし,さらに,③福島県の高線量率地域で捕獲された野生ニホンザルの被ばく線量評価を行った。このように,試料前処理法の改良,解析ソフトウエア開発,線量計候補材料の選定などを通じ,野生動物の被ばく線量評価,アラニン線量計をはじめとする簡易線量計では評価不可能であった1 Gy以下の低線量の被ばく評価を可能にすることに成功した。
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