アニオン認識化学は生体、環境分野で重要なため近年盛んに研究されている。本研究では、リン酸トリアミドの3つの置換基がすべて異なり、リン原子が不斉中心となるP-キラルなリン酸トリアミドの合成と、そのアニオン認識能について評価することを目的としている。 令和5年度に、昨年度合成したフェニル基、メトキシフェニル基に加え、L-ロイシンメチルエステルもしくはL-フェニルグリシンメチルエステルを導入したリン酸トリアミドについてカラムクロマトグラフィー等を用いて、それぞれのジアステレオマーを分離した。それぞれのジアステレオマーとN-アセチルアミノ酸アニオンのテトラブチルアンモニウム塩との会合について検討した。N-アセチルアラニンを用いると、リン上のキラル中心に対して、一方はL-体がより会合定数が大きく、逆のキラル中心に対してはD-体がより大きかった。これは、側鎖のキラリティよりもリン上のキラル中心が有効に働いていることを意味しており、本研究の重要な目的であるリン上のキラル中心がキラルアニオン認識において重要であることを証明できた。一方、N-アセチルロイシンならびにフェニルグリシンでは、側鎖との相互作用がある程度寄与していることも明らかとした。 さらに、二つの異なるアリール基と2-アミノエタノールを縮合したリン酸トリアミドのヒドロキシ基にアミノ酸誘導体をエステル結合で縮合した化合物もまた、順相クロマトグラフィーを用いてそれぞれのジアステレオマーを高いd.e.で分離することができた。加水分解によってアミノ酸誘導体を加水分解することで、P-キラルなリン酸トリアミドのエナンチオマーをそれぞれ単離することに成功した。今後、両エナンチオマーのキラルアニオン認識について検討する予定である。これらの化合物はP-キラルなリン酸トリアミドの両エナンチオマーを単離した最初の例である。
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