研究実績の概要 |
炭素-フッ素結合は安定な結合であるため、これを切断しながら化学変換を行うのは困難とされてきた。これに対して、金属を用いるフッ素脱離に注目し、穏和な反応条件下でのC-F結合活性化法を開発した。 まず、次世代冷媒として利用が始まっているハイドロフルオロオレフィン(HFO)を出発物質として用い、含フッ素置換基を有するヘテロ環化合物の合成に成功した。鈴木-宮浦カップリングと分子内付加-脱離における最適条件を見出し、医農薬に有望な含フッ素ヘテロ環化合物を合成した。HFO-1234zeの臭素化および脱臭化水素によって2-ブロモ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを調製し、スルホンアミド基を有するボロン酸エステルとの鈴木-宮浦カップリングを行ったところ、カップリングに続いて脱フッ素環化が一挙に起こり、3-(トリフルオロメチル)インドールが高収率で得られた。 さらに、入手容易な2-フルオロベンゾフランの穏和な条件下での脱フッ素カップリングを達成した。ニッケル触媒存在下、2-フルオロベンゾフランに対してアリールボロン酸を作用させたところ、室温で反応が進行し、2-アリールベンゾフランが高収率で得られた。反応機構を実験的に検討した結果、室温という穏和な条件で反応が進行する理由として、炭素-フッ素結合の切断がニッケルによる酸化的付加ではなく、ニッケラシクロプロパンを中間体とするβ-フッ素脱離で起こっているためと考えている。
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