研究実績の概要 |
均一系遷移金属錯体を用いた触媒的不斉合成プロセスにおいて、錯体の高分子担体への固定化は、生成物の分離を容易にし、高価な触媒の回収・再利用を可能とする。しかし、従来の高分子上に坦持した配位子と金属錯体との配位子交換を経る固定化では、反応性・選択性の低下をまねき、再利用回数も数回程度に留まっている。これまで研究代表者は、前例のない、四つのカルボキシラート配位子のうち一つだけが異なる配位子をもつ混合配位子Rh(II)錯体を創出し、本錯体の合成を基盤とする新しい固定化触媒の開発に取り組んできた。混合配位子Rh(II)錯体を用いる固定化は、各単量体の割合や構造、重合条件等を調節することで、反応系や合成プロセスに適した物性をもつ高分子錯体の合成を可能とする。そこで、本研究では新しい特性をもつ可溶性高分子の合成を検討した。 昨年度に引き続き、共重合の反応手法・条件を系統的に精査して、低温下でも使用できる可溶性架橋高分子の合成を検討したところ、自由度の高い架橋剤を用いて均一系重合を行うと、可溶性高分子としては異例の-78 °C下でも容易に攪拌可能な可溶性架橋ポリスチレン誘導体が得られた。一般的な可溶性鎖状ポリスチレンが温化低下により急激に粘度上昇を引き起こすのに対して、本架橋高分子の場合、温度変化の影響が著しく小さいことが判明した。 ところで、可溶性架橋高分子については合成例が限られていることから、そもそも機器分析に関する知見が極めて少ないのが現状である。そこで今回、分子量の測定法を種々検討したところ、検出器として光散乱を用いた場合に良好な結果が得られ、Mwが10,800、Mnは5,400であることがわかった。
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