研究課題/領域番号 |
21K05209
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 悟 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (00799562)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有機半導体 / プリンテッドエレクトロニクス / 有機トランジスタ / 層状結晶性 / アルキル基 / チエノアセン |
研究実績の概要 |
有機半導体は、既存の無機半導体では困難な、常温・常圧下で既存の印刷技術を用いて電子デバイスを作製する「プリンテッドエレクトロニクス」を実現するための基本要素となる材料である。中でも剛直なチエノアセン骨格と柔軟なアルキル基が連結した棒状分子有機半導体には、横繋がりの分子層を形成しやすい性質(層状結晶性)があり、キャリア輸送に最適な伝導面を層内方向に沿って構築できることから優れたキャリア輸送特性を示す。本研究ではこのような層状結晶性を有する有機半導体の性能向上を目的に、非対称縮環構造を持つπ電子系骨格に多彩な化学修飾を施した、非対称置換-非対称骨格型の高性能有機半導体の創製を目指す。 本年度は、分子の長手方向に向かって非対称に縮環が組み上げられたチエノアセンπ電子骨格を有する新規分子の合成・結晶構造解析を進めるとともに、これら分子の層状結晶性の強化に効果的な置換基探索、およびその特長に最適なデバイス作製プロセスについて検討を行った。新たに非対称置換-非対称骨格型化合物を複数合成し、単結晶構造解析からそれらがいずれも優れたキャリア輸送を示す層状構造である2分子膜型の層状ヘリンボーン構造を形成することを明らかにした。また、置換基探索では回転自由度の高い置換基の導入によって高次の液晶相が室温で凍結された構造を持つ新たな液晶性有機半導体の開発に成功した。さらに、これらの層状結晶性材料は絶縁ポリマーと混合することで、既存の印刷プロセス(スピンコート法)下、優れた特性を示す有機トランジスタを作製できることを実証した。以上の成果より2件をアメリカ化学会誌にて論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究によってその高い層状結晶性が明らかになった非対称置換-非対称骨格型半導体は、いずれもこれまで開発が見過ごされてきた非対称縮環チエノアセン骨格を導入した材料である。この結果は、一見して優れたキャリア輸送性を示す高次秩序が期待できないような対称性の低いπ電子骨格を、優れたデバイス性能を示す材料に導くための明確な指針となるものである。さらに、当初の計画に加えて進めた置換基探索やプロセス適合性の検討からは、開発した半導体の高い層状結晶性に由来した優れたデバイス特性を実証できただけでなく、柔らかな液晶状態で高性能を示す半導体によるソフトマターエレクトロニクスの展開が期待できる成果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度開発することができた有機半導体の中でも、より新規性の高い非対称骨格を含む化合物について重点的に誘導体化およびそれらの材料からなるデバイス物性を明らかにし、学会・論文発表を進める予定である。加えて、今年度大きな進展が見られた置換基と層状結晶性との相関についても新たな仕掛けを持った置換基の考案を行い、非対称骨格との統合を検証する。
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