電子・光デバイスを塗布により構築するプリンテッドエレクトロニクス向け有機半導体の性能向上を目的として、非対称縮環構造を持つπ電子系骨格に多彩な化学修飾を施した、非対称置換/非対称骨格型の高性能有機半導体の創製を目指した研究を行っている。昨年度までの研究により、導入する置換基変換にもとづく相互作用制御が、優れた性能を示す薄膜トランジスタ構築に最適な層状結晶性を増強する上で重要であることが明らかになってきた。そこで最終年度は、薄膜トランジスタの性能向上により効果的となる置換基の探索について重点的に検証を進めた。 これまで開発してきた一連の有機半導体は、長鎖アルキルの非対称置換によって分子長軸方向を揃えた分子層を形成する性質(=高い層状結晶性)を示す。今回新たに、アルキル基の対置換基としてパラトリル基を導入した有機半導体を設計・合成し、その単結晶構造解析を行ったところ、分子層間の相互作用が弱められ、分子層間の接続が互い違いになる反極性な2分子膜構造と、層間が全て head-to-tailとなる極性型積層構造が、アルキル炭素数の偶奇により交互に現れることを見出した。構造形成の起源を分散力補正DFT法による相互作用エネルギー計算によって調査したところ、単分子層のアルキル末端の形状が鎖が偶数の場合のみ、π電子骨格側のパラトリル基先端からなる最表面の形状に類似することで、効果的に分子層間の相互作用が働き、極性型積層構造が安定化することが明らかになった。さらに、単結晶を用いた薄膜トランジスタを作製した結果、最大10cm2/Vs程度の優れたキャリア輸送性を示すだけでなく、極性形積層構造を与える分子配列構造が、きわめて優れたスイッチング性能(SS値=100mV/dec)を示すことが明らかとなった。以上の成果を応用物理学会にて発表するとともに、Advanced Science誌にて論文発表した。
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