研究課題/領域番号 |
21K05253
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
宇井 幸一 岩手大学, 理工学部, 准教授 (60360161)
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研究分担者 |
竹口 竜弥 岩手大学, 理工学部, 教授 (30227011)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リチウム-空気二次電池 / 電解質 / 空気極 / イオン液体 / カーボンナノチューブ / 電気化学インピーダンス |
研究実績の概要 |
本年度は電解質/空気極の界面設計に関する基礎的知見を得るため、空気極に化学的安定性に優れる多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)を、電解質にアミド系イオン液体(イオン液体系)を用いたリチウム-空気二次電池を作製し、以下の項目を実施した。 電解質の種類とMWCNT空気極のサイクル特性の関係を評価した。従来のエーテル系有機溶媒電解質(有機溶媒系)では約40サイクル目に放電容量が減少したが、イオン液体系では60サイクル以上安定していた。先行研究におけるケッチェンブラック(KB)空気極と同様にイオン液体系を用いた方が良好なサイクル特性を示した。これは放電時に生成する副生成物や充電時の主生成物の分解が電解質の種類に依存し、有機溶媒系では残留物の蓄積のため、空気極表面がより多く閉塞されたためと考えられる。初回放充電曲線の形状を比較すると、イオン液体系と比べ、有機溶媒系の放電時過電圧が僅かに小さかった。これは有機溶媒系の方が低粘度、高電気伝導率のためと考えられる。一方、充電時過電圧はイオン液体系の方が僅かに小さかった。これは電解質の物性にかかわらず、有機溶媒系では、放電生成物がより堆積もしくは残留し、空気極表面が閉塞され、界面抵抗が増加したためと考えられる。 上記充電時過電圧を考察するため、電気化学インピーダンス測定を用いて、イオン液体系中における空気極の界面挙動を解析した。電解質/空気極界面の電荷移動抵抗(Rct)を比較すると、MWCNT空気極は従来のKB空気極よりも小さかった。これはMWCNTが高い電気伝導率を有し、イオン液体の分解が抑制されたためと考えられる。また、MWCNT空気極のRctは有機溶媒系よりもイオン液体系の方が小さかった。 以上より、電解質にイオン液体、空気極にMWCNTを用いることで、電解質/空気極界面抵抗が小さくなり、サイクル特性が改善されたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は空気極にMWCNTsを、電解質に環式脂肪族カチオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TFSA)アニオンから成る室温イオン液体の中から、リチウム金属への耐還元性に優れ、室温域以下で融点を有するものを選択し、当初の計画のとおり、以下の3項目を実施した。 1) FE-SEM/EDX、XPSなどを用い、放電時に空気極表面に生成する析出物(主生成物のLi2O2、副生成物など)の状態・成分を分析した。 2) 電気化学インピーダンスなどの電気化学的手法を用い、室温イオン液体電解質/空気極の界面挙動を測定し、放充電反応に伴うパラメーター(電荷移動抵抗、電気二重層容量、Li+イオンの拡散抵抗など)を解析した。 3) 上記1)と2)を合わせて、「室温イオン液体の構造が空気極の寿命に影響を及ぼす要因」を考察し、析出物が堆積(目詰まり)しない空気極設計に関する基礎的知見を得た。 上記3項目に加え、先行研究におけるケッチェンブラック空気極と同様にMWCNT空気極でも室温イオン液体系を用いた方が良好なサイクル特性を示したことから、炭素基材によらず、電解質に室温イオン液体を適用する優位性に再現性が得られた。以上より、空気極表面の析出物の状態・成分を解析することで、「室温イオン液体の構造と空気極の寿命との関係」を考察し、さらにはリチウム-空気二次電池の高性能化に向けて基礎的知見を得たことから、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は概ね順調に進展したので、当初の研究実施計画を実施していく。令和4年度は令和3年度に得られた結果を基にして、他の脂肪族カチオン(環式・非環式など)、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン(FSA)から成る室温イオン液体に展開して、上記「現在までの進捗状況」に記した1~3)の項目を実施する。 上記1)と2)を合わせて、「室温イオン液体の構造が空気極の寿命に影響を及ぼす要因」を考察し、析出物が堆積(目詰まり)しない空気極の界面設計を得て、リチウム-空気二次電池の高性能化を導く。 また、得られた結果を取りまとめ、研究成果を国内外への発表を積極的に試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の感染状況により、国内外の学会にはオンラインでの参加となり、国内および外国旅費を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。 使用計画は試薬などの消耗品費に充当して、研究のさらなる遂行を目指す。
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