本研究は,ヒ素,水銀,カドミウムといった世界で健康・環境に関する問題の原因となっている有害金属について,植物の根端分裂組織に及ぼす影響と,DNA損傷応答の関与について検証することを目的としている。最終年度は,前年度までに本研究で確立したモデル植物のシロイヌナズナのDNA損傷をリアルタイムPCRで定量する解析法を用いて,シロイヌナズナのDNA損傷応答のマスター制御因子であるSOG1の欠損変異株における有害金属ストレス下でのDNA損傷を定量した。仮説としては,sog1変異株では相同組換えによるDNA損傷の修復が誘導されないため,有害金属ストレスによってDNA損傷が蓄積すると予測していたが,結果としては野生型との間に明確な差は認められなかった。今後,相同組換え経路以外のDNA修復経路についても検証が必要である。 また,cad1-3を用いたヒ素とカドミウムの毒性の特異性の解析については,前年度に引き続いて,ストレス処理後の回復応答のヒ素とカドミウムの違いを詳細に検証した。根端分裂組織の未分化細胞の分化を制御する静止中心のマーカーpWOX5-WOX5-GFPを経時的に観察したところ,ヒ素ストレスではWOX5-GFPの発現は影響を受けなかったが,カドミウム処理区においてダメージの大きい個体ではWOX5-GFPの発現は消失し,ストレスからの回復処理でも発現は復帰されなかった。この時の遺伝子発現を解析すると,ヒ素処理区ではDNA損傷剤と類似した一貫性のある応答を示したのに対して,カドミウムでは遺伝子発現応答と根の形態が一致しない一貫性に欠ける結果となった。前年度までの結果と併せると,ヒ素に対する根の応答がDNA損傷応答と類似した積極的なストレス応答である一方,カドミウムは細胞分化を含む根端分裂組織の機能を阻害する不可逆的なダメージを与えることが示唆された。
|