研究実績の概要 |
乳中の塩基性糖タンパク質であるラクトフェリン(以下、LFと略す)の多様な生理作用が、LFと特異的に結合している微量成分(LF結合成分)に起因しているという仮説をもとにして、LFのさまざまな生理作用の活性本体を明らかにし、医薬品あるいは機能性食品等の有効成分として活用することを目的に研究を進めた。分子量8,000未満にターゲットを絞った分析条件で、LF結合成分に含まれるペプチドを網羅的に明らかにするため、LC-MS/MSショットガン法による解析を行った。ダイレクトフローnano LCシステムEasy-nLC 1000に、トラップカラムAcclaim Pep Mapおよび分析カラムNano HPLC Capillary Columnを設置し、質量分析計Q Exactive Plusで分析した。解析ソフトウェアはProteome Discoverer、検索エンジンはascot、データベースはSwiss Protを用いた。その結果、300種類以上のペプチド(分子量783~3,776Da)が、LF結合成分として存在することが明らかとなった。逆相ペプチドカラムX Select Peptide CSH C18によるHPLC、あるいはF-moc法を用いた化学合成により、一次構造が明らかになったペプチドを調製した。そして、マウスマクロファージ様細胞RAW264.7、ヒト好中球様細胞HL-60およびヒト腸管上皮細胞Caco-2を用い、LPSおよびIFN-γによる刺激で炎症性サイトカインを産生させる炎症反応実験系で、高純度LFおよび各種ペプチドによる抗炎症作用について調べた。培養上清中の炎症性サイトカインを特異抗体によるELISAで測定した結果、複数のペプチドにTNF-α、IL-1β、IL-6およびIL-8の産生を抑制する活性がみられた。いずれかの反応性を示したペプチドには、アミノ酸数残基に及ぶ共通の一次構造があった。また、Museセルアナライザーを用いて、生細胞内部で産生されるNO量を測定したところ、NO産生を亢進するペプチドと抑制するペプチドの両方が確認された。
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