研究課題/領域番号 |
21K05510
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
千葉櫻 拓 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (30227334)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞増殖制御 / p27 / NPM1 / タンパク質間相互作用 / 足場非依存的増殖 / ARF / p53 |
研究実績の概要 |
NPM1によるp27機能抑圧の分子機構と生理学的意義の解明を目的として、本年度はNPM1のp27相互作用領域の解析および種々のがん細胞株・培養条件におけるp27機能解析を行った。 酵母2ハイブリッド系を用いた相互作用解析の結果、NPM1は主にC末端領域においてp27と相互作用し、N末端領域がその相互作用を促進することが示唆された。また、サイクリンAのp27相互作用部位と構造的に類似した位置にある、NPM1のC末端領域の3箇所の疎水性アミノ酸がp27相互作用に関与することが示唆された。組換えタンパク質を用いたin vitro分子間相互作用解析については、非特異的相互作用が高く、評価が不可能であった。 種々のがん細胞株でのp27機能評価解析からは、既に検証済みの2種に加えて3種の細胞株で同様のp27機能抑圧が示されたが、1種では部分的な抑圧であった。その要因として、この細胞株では他の5種と異なりNPM1の抑制因子ARFが発現しているためと考えられた。そこでARF-NPM1-p27制御経路を検証すべく、NPM1によるp27機能抑圧を示す細胞株でARFを過剰発現させた結果、NPM1とp27の核小体への共局在が消失し、p27の正常な核質局在が回復した。ARFは多くのがん種で欠損しており、それがNPM1によるp27機能抑圧の要因として重要であることが示唆された。 また、p27機能評価の条件として、通常の足場依存的(2-D)培養に加えて足場非依存的(3-D)培養について検証した結果、2-Dと3-D条件でp27機能抑圧の有無が異なる細胞株が多く見られた。特に3-D条件で、p27機能が正常な細胞株では主要がん抑制因子p53が野生型であるのに対し、p27機能が抑圧される細胞株ではp53が変異型または遺伝子欠損していることから、足場非依存条件におけるp27の機能をp53が正に制御することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NPM1のp27との相互作用部位については、N末端・C末端領域ともに関与が示唆されたため、結合部位の詳細な同定には至っていないが、候補部位としてC末端領域内の疎水性アミノ酸残基が示されたことは大きな進展である。また、種々のがん細胞株を用いた解析より、多様ながん種におけるp27の機能抑圧が示されたとともに、ARFの欠損との相関が示唆されたことから、ARF-NPM1-p27制御経路の実態が明らかになりつつある。さらに、新たに展開した足場依存・非依存的培養条件におけるp27の機能解析より、足場依存条件ではARF、足場非依存条件ではp53がp27の機能を正に制御することが示唆され、今後のp27機能制御解析における新機軸を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
NPM1-p27相互作用部位については、引き続き双方の変異体を用いて、特にp27のNPM1相互作用部位とNPM1のN末端領域の解析を行う。またNPM1のC末端領域の疎水性アミノ酸残基の変異体を用いて、動物細胞内でのp27との相互作用解析を進める。NPM1と相互作用しないp27変異体が得られれば、NPM1によるp27機能抑圧を示すがん細胞に導入し、抑圧を解除できるか検証する。ARFによるNPM1の抑制効果については、p27機能抑圧との相関性をさらに検証するため、ARF発現細胞株におけるARFノックダウンまたはノックアウト解析を行う。また、ARF欠損細胞株にARFを安定導入し、p27機能が回復するかを検証する。以上の解析を通して、最終年度に担がんマウスにおいてin vivoでARF-NPM1-p27制御経路を検証するための基盤を整備する。 足場非依存的培養条件下でのp53によるp27機能制御は新規に見出した現象であり、多くのがんにおいてp53が変異・欠損していること、また浸潤・転移など足場非依存的ながん細胞の生理的条件を鑑みて、p27機能の新規制御機構として重要な知見と考えられるため、当初の計画には含まれてないが積極的に研究を推進したい。現在、p53欠損がp27のプロテアソーム依存的タンパク質分解を促進するデータを得ているので、その分解制御機構を解明する端緒として、p27の各種欠損・置換変異体を用いた分解シグナルの同定、ユビキチン変異体や各種プロテアソーム阻害剤を用いた分解経路の解析等を行う。さらにマウスや発育鶏卵などのin vivoがん転移モデルにおいて、p27の発現・機能とがん転移との相関を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品のキャンペーン価格購入等により、当初の予算設定より安価に購入出来たため。 次年度の消耗品費に加算して使用する。
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