当初の研究テーマであるNPM1-p27間の相互作用機構および制御経路解析については、相互作用機構の概要とARFによるNPM1-p27制御機構を令和3年度の成果として論文発表し、詳細な分子解析は終了した。令和4年度以降は、新規に見出したp53によるp27分解抑制機構と足場非依存下でのがん細胞表現型のp27による抑制機構に関する研究を行った。 p53によるp27分解抑制機構:令和4年度にp27の10番目セリン (S10)または187番目スレオニン (T187)の非リン酸化型変異によりp53欠損下でのp27分解の抑圧が示されたため、両変異を二重導入した結果、各単一変異と比べてp53欠損下でのp27安定性が相加的に向上したことから、S10とT187のリン酸化に依存する別々のp27分解経路がともにp53によって抑制されていることが示唆された。これらのリン酸化はそれぞれCrm1およびSkp2が認識することが既知であるため、p53欠損下での発現量を調べたが、いずれも野生型p53存在下と変わらなかった。 p27によるがん細胞表現型の抑制機構:p27を誘導発現させたがん細胞株HT1080において、足場存在下では増殖が抑制されず、足場非存在下では抑制されることを令和4年度に論文報告した。また、p27誘導発現下で細胞遊走・浸潤・転移能が抑制されることを同年見出した。そこで、既知の転移関連遺伝子群の発現を解析したところ、足場依存的条件下で、主要転移関連因子のうち、ITGαV(細胞接着因子)、GLUT1(グルコーストランスポーター、浸潤促進因子)の発現がp27誘導発現により著しく低下することが示され、細胞接着・浸潤能がp27発現により抑制されることが示唆された。また、発育鶏卵異種移植系において、転移能そのものへのp27誘導発現の効果を解析するため、がん細胞の静脈注射による転移アッセイ系を確立した。
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