研究課題
本課題では、土石流発生により形成される沖積錐を手がかりに、その有無を目的変数、後背流域の地形特性を説明変数とした決定木分析を行い、土石流の発生ポテンシャルが高い山地流域を的確に抽出する手法を構築することを目的とする。本年度は、地質の物性が大きく異なる2つの地域(新第三紀堆積岩類地域と古第三紀付加体地域)を対象にして、沖積錐分布に基づく決定木分析から、地質ごとに土石流発生に寄与する後背流域の地形因子とその地形量を調べた。沖積錐は地形図から判読し、後背流域は10 m DEMを基にしてその範囲を求めた。後背流域の地形特性については、扇状地の形成因子や土石流発生に関わる因子を参考に、6つの指標(①流域長,②比高,③最頻傾斜,④集水面積、⑤起伏比(比高/流域長)、⑥ 流域末端から100 m上流区間の沢の勾配)を検討した。地形図から沖積錐を判読した結果、新第三紀堆積岩類地域は90流域のうち23流域で沖積錐が確認され、67流域は流域末端に沖積錐が形成されていなかった。古第三紀付加体地域は68流域のうち26流域で沖積錐が確認され、42流域は流域末端に沖積錐が形成されていなかった。決定木分析により得られた地形条件に基づき、沖積錐の有無を判定した結果、新第三紀堆積岩類地域、古第三紀付加体地域ともに80%以上の流域は地形図判読の結果と一致する正しい判定となった。さらに、決定木の最上位の因子(最重要地形因子)は、地質により異なった。新第三紀堆積岩類地域では「流域長が540mよりも長い場合」に沖積錐が形成されない判定となった。古第三紀付加体地域では「流域末端から100m上流区間の沢の勾配が5.1°以下の場合」に沖積錐が形成されない判定となった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、沖積錐の抽出および後背流域の地形量を算出し、決定木分析から土石流発生に寄与する後背流域の地形因子とその地形量を明らかにすることができた。主に以下の結果が得られた。新第三紀堆積岩類地域と古第三紀付加体地域を対象にして分析した結果、沖積錐形成に支配的な地形因子は地質により異なることが判明した。決定木分析により得られた沖積錐形成に寄与する後背流域の地形条件から、河川の浸食や人工改変により沖積錐が見られない流域においても、潜在的な土石流発生ポテンシャルを評価できた。これらの結果については、学会発表で成果を公表した。
地質ごとに土石流発生に寄与する後背流域の地形因子の重要度や地形量の閾値に関する考察・検討を行う。決定木分析により得られた地形条件に基づき沖積錐の有無を判定した結果、地形図判読の結果と異なる流域が見られたため、その要因を明らかにする。さらに、隣接する同一地質の水系へ解析範囲を広げ、同様の結果が得られるか検証を行い、手法の確度を高める。
昨年度末に地形図判読による沖積錐の有無と決定木分析により推定された沖積錐の有無が一致しない流域が新たに確認された。よって、その要因を現地にて確認する必要があり、現地調査旅費として使用する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (3件)
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