研究課題/領域番号 |
21K05688
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
名波 哲 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70326247)
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研究分担者 |
伊東 明 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (40274344)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 果実 / 分光反射率 / 種子散布 / 鳥類 / 光環境 / 紫外線反射 |
研究実績の概要 |
被食散布型植物の果実の色は、果実の存在や成熟度を種子散布者である鳥類などに知らせるシグナルの1つである。本研究では、日本各地から採取した被食散布型植物281種の果実について、分光光度計を用いて紫外線領域も含めた果実の分光反射率を測定した。反射光の波長を300-400nm(UV)、400-500nm(青)、500-600nm(緑)、600-700nm(赤)の4領域に分け、全体の反射量に対する各領域の反射率を求めた。図鑑の表記に基づいた果実の色の評価と今回得られた4領域の数値を比較すると、同色に分類されている果実の中でも紫外線領域の反射率は大きくばらついた。それらは主に黒や黒紫と記載されていた果実で見られ、bloomと呼ばれる果実表面の蝋物質が関与していた。また、果実の反射スペクトルは4領域全てで系統シグナルがあり、近縁種間で果実の反射スペクトルは類似していた。 さらに、得られた各領域の反射率から、果実の色が生育環境により左右される可能性について考察した。その結果、樹高の高い種ほど果実の紫外線反射率が大きい傾向があり、これは果実が強光に晒される高木ほど鳥類へのシグナルとして紫外線反射を利用するためと考えられた。また、測定した果実の分光反射率に、生育地の北限(琉球・本州・北海道)における結実月の太陽光スペクトルを掛け合わせ、結実個体がおかれた環境下での果実の分光反射量を求めた。その結果、多くの植物種において、果実の色は光環境の影響を受けることが示された。しかし、中には光環境の影響を受けにくい種もあり、その多くは赤い果実を実らせるものであった。赤い果実は特定の波長のみを強く反射する特徴を持ち、反射する光の組成が変化しにくいためと推測された。今後は、光環境を左右する要因として生育場所の開空度なども考慮し、自然環境下における果実の色を定量化することが重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
果実の色は、植物の繁殖成功や集団の維持を左右する重要な形質である。これまでの多くの先行研究では、果実の色は『赤』『黒』といったヒトの色覚によって評価されてきた。本研究では、日本の森林に置いて主たる種子散布者である鳥類の4色型色覚に注目し、ヒトの可視光に加え紫外線領域も含めた上で果実の色を評価できた。また、当初は樹木のみを対象とする予定であったが、森林に生育するつる植物や草本も含めて281種の果実の分光反射スペクトルを定量化することができた。その結果、高木・低木に、つる植物、草本が加わり、果実の反射スペクトルと生活形との対応関係を幅広く解析できるデータが得られた。 また、自然環境下において、果実によって反射され鳥類の眼に届く光は、その場の光環境にも左右されるはずである。実際に、光環境の違いによって、種子散布の観点から適応的な果実の色が異なることが過去の研究で示唆されている。したがって光環境が果実の色に影響を与える可能性も検討する必要がある。本研究では、果実自体の分光反射率の特徴に加えて、緯度や季節によって異なる光環境の影響を考慮した。各種の分布域、結実期、生育環境に対応した太陽光スペクトルと果実の分光反射率を掛け合わせ、結実個体がおかれた環境下での果実の分光反射量を求めた。その結果に基づき、果実の色が光環境から影響を受ける可能性と、果実の分光反射量と様々な生態特性との関係について考察することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、鳥散布型果実をもつ日本産植物種のうち、未採集の種をサンプリングし、対象種を増やすことに努める、また、光環境を左右する要因として生育場所の開空度なども考慮し、自然環境下における果実の色を定量化することが重要である。 続いて、対象種を系統分類群や生活形によってグループ分けして、各グルごとの色(反射スペクトル)の多様性を評価して比較する。特定のグループに関しては種間の系統関係を明らかにして、果実の色の多様化プロセスを探る。 さらに、果実の色の適応的意義を考えるために、実際にどんな動物が果実を採食するのか、明らかにする。特に主たる種子散布者である鳥類に関しては、果実の色に対する嗜好性の有無やその程度を調べる。特に果実の紫外線反射の程度が、鳥類による採食に影響を及ぼすか否かを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画よりも多くの種数が集まったため、計画していたDNA解析によるSNPs検出を次年度に行うことにした。次年度はさらに種数を増やし、その上で全ての種についてのDNA解析を一度に行う予定である。
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