日本の森林において,植物の種子散布に貢献する動物,鳥類と哺乳類に注目した.両者は異なる色覚をもつため,その嗜好性や行動が果実の色の進化に影響しうるかどうかを調べた結果、鳥類と哺乳類で色への嗜好性が異なることが示唆された。ハクビシンは赤い餌を好まず、タヌキには色に対する嗜好性が見られなかった。ヒヨドリは赤色と黒色の餌を好んだ。また、鳥類散布型の植物の果実の色の構成には偏りがあり、赤色と黒色の果実の割合が高く、紫外線をよく反射する果実も含まれていた。一方,哺乳類に散布される可能性がある果実には、黒色や紫外線を反射する果実は存在しなかった。以上の結果から、果実の色の多様性には散布者の行動や嗜好性が関係していることが示唆された。 次に,鳥類に絞って研究を展開した.果実の色と鳥類の行動が、相互適応的である可能性を調べるため、①鳥類は紫外線を反射する果実に誘引される、②鳥類種によって好む果実の色は異なり,その嗜好性と各鳥類種の行動範囲に存在する果実の色は一致する、という仮説を検証した。 まず日本産被食散布型植物 の果実の分光反射スペクトルを紫外線領域を含めて定量化した結果、赤色、黒色、ならびに紫外線を反射する果実が多かった。 次に、日本産スノキ属 樹種の分子系統関係を RAD-seq 法により明らかにして PGLM 解析を行った。その結果、樹高が低い種ほど赤色の、高い種ほど黒色または紫外線を反射する果実をもつ傾向があった。さらに、人工果実による採餌実験の結果、低木層で活動するウグイスは赤色、中高木層で活動するメジロは黒色を好んだ。これらの結果から、紫外線領域を含む果実の光反射スペクトルが鳥類の行動に影響すること、各鳥類種が好む果実の色とその鳥類種の行動範囲に存在する果実の色が一致することが示された。
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