サケ科魚類のサクラマスはオスの生活史形質が2つ存在する。1つは河川で成長し、そのまま早熟で成熟する残留型であり、もう1つは河川で成長したのち、海を回遊し、繁殖に参加する降海型である。2つの生活史分岐は幼魚期の成長が関連しており、成長が早い個体は残留型として成熟する傾向があることが知られている。本研究ではこれら生活史形質や生息環境の違いが精子および血液のテロメア長、さらにはテロメラーゼ酵素活性に対し、どのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的とした。具体的には、北海道全域、秋田県および富山県において繁殖期である9月およびスモルト期の5月に血液および精子のDNAサンプリングを行った。これら400個体ほどサンプルは、リアルタイムPCRによってテロメア長の測定を行った。また、テロメラーゼの測定のため、血液からRNA抽出を行い、同様にリアルタイムPCR法によって、各個体の活性を調べることを行った。精子テロメア長と生活史形質の関係を調べた結果、有意な関係が認められ、降海型オスと残留型オスの精子テロメアが異なることが示された。一方、血液のテロメア長は、精子テロメア長とのパタンと反対の傾向があることが示された。これらのことより、精子テロメア長と血液テロメア長にはトレードオフの関係があることが示唆された。 また、テロメア長を測定した配偶子を用いて半同胞集団を作成し、親と子のテロメア長の遺伝性に関する研究を行った。その結果、個体レベルでは有意な関連性は示されていないが、雄親の生活史ごとには正の関連を示し、雄親の違いが子のテロメア長へも影響することが示された。今後は、これら違いが個体の生存や回帰率にどのように影響するのかを示すことが重要であり、現在それら研究を始めているところである。
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