研究課題/領域番号 |
21K05790
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
加川 尚 近畿大学, 理工学部, 教授 (80351568)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大胆行動 / 慎重行動 / 神経ペプチド / メダカ |
研究実績の概要 |
本研究は、魚類の大胆または慎重行動が仲間の有無によってどのように調節されるか、また、それらの行動調節に神経ペプチドや神経伝達物質が関与するかをメダカを用いて解明することを目的としている。本年度は、同種他個体の存在の有無で大胆行動と慎重行動をとる個体を得た後、脳内のバソトシン(VT)、VT受容体(V1aR)およびドーパミン合成酵素(TH)の発現量をそれぞれの発現領域ごとに解析、比較した。なお、VT発現解析は前年度にも実施したが、各脳領域における遺伝子発現量をin situ hybridization法を用いてさらに詳細に調べるとともに、被験個体数を増やして解析した。その他の遺伝子発現も同手法により解析した。その結果、大胆個体と慎重個体との間で、VTおよびV1aR遺伝子の発現量はいずれの脳領域においても差がなく、メダカの大胆行動の調節にVTは直接関与しないことが示された。一方、TH遺伝子発現量は同種他個体存在下で大胆行動をとった個体の脳視索前核における特定領域で増加することが明らかになった。以上の結果は、バソトシンとドーパミンが大胆行動調節にはたらく脳内機構に共役するといった本研究計画当初の予想と反したものであった。しかし、本年度の研究結果から、特定脳領域で合成増加したドーパミンが大胆行動亢進にはたらく可能性が強く示唆された。なお、THはドーパミン合成のみならず、ノルアドレナリン合成にも関与する酵素であるが、予備実験により当該脳領域ではノルアドレナリンが合成されないことを確認した。大胆行動時に脳視索前核の特定領域で増加するドーパミンが受容される脳領域の特定とその領域における機能解明が新たな課題として明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大胆個体と慎重個体におけるドーパミン合成酵素遺伝子の各脳領域における発現量の比較解析が計画通りR4年度中に完了した。また、R3年度に解析した脳内VTおよびVT受容体の遺伝子発現量を実験個体数を増やしてさらに詳細に解析し、メダカの大胆行動調節にVT発現は直接関与しない可能性が示された。また、大胆行動時にドーパミン合成酵素の遺伝子発現量が有意に増加した脳領域においても、VT受容体の発現変化はみられなかったことから、大胆行動の調節に機能するドーパミン神経とVTとの関連性はないと考えられた。これらの結果は当初の予想とは異なるものであったが、大胆行動時に活発化する特定脳領域のドーパミン神経が脳内のいずれの領域に軸索を投射して機能するかという新たな課題が明確になった。R5年度は解析対象をドーパミン神経とドーパミン受容体に集中して研究を進展させる予定であり、大胆行動調節にはたらく脳内機構を解明する本研究の目的達成に向けて順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
R5年度は大胆行動をとる個体の脳内で発現増加するドーパミンがどの神経領域に作用して行動調節に関与するかを調べる。まず、ドーパミン神経の軸索投射領域を脳スライスを用いた免疫組織化学的手法によって解析し、大胆行動と慎重行動をとる個体間で比較する。次に、ドーパミン受容体を発現する脳領域をin situ hybridization(ISH)法によって明らかにするとともに、大胆行動時にその受容体発現量が増加する脳領域を特定する。さらに、ドーパミン神経亢進薬または拮抗薬を処理した個体を用いてrisk-taking行動試験を行い、大胆または慎重行動に変化がみられるか調べる。これらの解明を通して、大胆行動を調節する脳内ドーパミン神経作用領域とその機能を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当該脳領域におけるドーパミン合成酵素遺伝子発現に対するVT処理の影響がみとめられなかったことから、ドーパミン神経におけるVT受容体発現解析を行う必要がなくなり、その解析に使用する試薬費が計画よりも少なくなった。 使用計画:R5年度は大胆行動をとる個体の脳内で発現増加するドーパミンがどの神経領域に作用して行動調節に関与するかを調べる。次年度使用額は、この実験でドーパミン受容体発現領域および発現量を解析する試薬費に充てる。
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