研究課題/領域番号 |
21K06046
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤原 敏道 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (20242381)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞内蛋白質 / 固体核磁気共鳴 / 動的核分極 / 細胞構造 |
研究実績の概要 |
膜タンパク質機能の構造基盤を定量的に明らかにするためには,他の生体高分子や低分子リガンドと相互作用しながら,変化する構造を原子分解能で解析する必要がある。さらに細胞システムとしての機能解明には,1細胞内でのそれら各分子の数と位置,分子クラウディングに伴う蛋白質分子の多型構造状態分布など,定量的で原子から細胞に渡るマルチスケールな構造的解析が必要である。このことを,大腸菌とそこで発現させた膜タンパク質イオンポンプ型ロドプシンなどを主なモデル細胞-生体分子系として解析を行った。本課題の方法論的特徴は,固体NMR及びその感度を1000倍向上させる超偏極高分解能クライオNMR法を用い,それと相補的な光学および電子顕微鏡も利用することである。この超偏極高分解能NMR法は,私たちが先進的に開発した極低温電子スピン・核スピン共鳴装置により初めて可能にし,0.1から50nmまでの構造情報を得られる。この方法で,タンパク質がペリプラズム領域に局在することをプロトンスピン拡散実験で明らかにした。この実験では,細胞外に分極剤を配置して,そこで生じる巨大な分局がペリプラズムあるいは細胞内に拡散する時間より細胞構造に関する知見を得た。細胞局在のために,タンパク質にはシグナルペプチドを付加した。また,この超高感度固体NMR装置についてレシーバーなど検出器部分を低温にするように改良して熱ノイズを削減することで,さらに感度を約5倍向上させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「1細胞系における蛋白質分子定量的・位置特異的解析」では,NMR信号強度を細胞数で規格化して1細胞当たりの分子数計測を行い,同位体標識蛋白質の生合成を定量的に追跡した。また,超偏極させる分極剤の細胞内局在と,20Kの極低温で核スピン磁気緩和時間が長いため初めて可能になる長距離のスピン拡散によっても,生体膜からの距離として1μmに近い長距離位置情報をえた。これらをクライオ電顕画像とも組み合わせて,蛋白質の膜挿入の配向,内膜・外膜での局在,ペプチドグリカンや他蛋白質との相互作用を調べた。大腸菌の内でその膜蛋白質の分子数,存在分布を解析した。さらに他の蛋白質や生体膜成分と相互作用するヘテロな環境での蛋白質の構造状態をモニターした。これによって細胞が与える状態を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果に基づいてさらに,細胞内でも原子分解能で膜蛋白質構造解析・多型状態分布解析を初めて行い,人工的な脂質膜条件下との違いを示す。これを統合して対象蛋白質にフォーカスしたマルチスケールな一つの膜蛋白質・細胞構造モデルとして提示する。この成果は,細胞環境による蛋白質機能の変調と制御の構造的基盤を明かし,分子レベルの構造生物学と細胞レベルの生命科学との溝を埋めることにも寄与する。
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