細菌べん毛モーターは、H+またはNa+の細胞内外の濃度差および膜電位によって決定される電気化学ポテンシャル差をトルクに変換する生体ナノマシンである。べん毛モーターは回転子と固定子から構成され、イオンチャネルとして機能する固定子内部に共役イオンが流れることで固定子と回転子が相互作用し、回転力を発生させる。1回転あたり26回のステップ状変位が観測されており、固定子と回転子の相互作用素過程がステップとして反映されていると考えられている。しかし、回転速度が非常に速いため精度の高い回転ステップの検出が難しく、さらに1つのモーターに対して固定子が10個前後組み込まれることから、イオンの流れと力の発生の関係性を見出すことが大変困難である。そこで、生理条件下でモーターに組み込まれる固定子数が1個と少なく、回転速度が遅い枯草菌べん毛モーターの回転ステップを解析することで、イオンの流れがどのように力に変換されているのか明らかにすることを目指した。 べん毛モーターが生み出すトルクは、ビーズアッセイ法によって解析した。ビーズアッセイ法は、スライドガラス上に接着させた菌体の1本のべん毛フィラメントにポリスチレンビーズで標識し、べん毛の回転をビーズの回転として計測する方法である。高速回転しているビーズの回転速度および回転半径を計測し、測定時の溶液の粘度からトルクを算出した。今回、生理条件下でゆっくり回るモーターを持つ枯草菌株の測定系を構築し、その回転計測およびステップ解析を行った。その結果、先行研究で報告された大腸菌と同様に、枯草菌のべん毛モーターの回転も動作と停止を繰り返すステップ変位として観察することができた。さらに、エネルギー入力であるNa+駆動力、すなわち計測時のNa+濃度とpHを変化させることで、ステップの動作に変化が見られた。現在、これまでの結果を論文としてまとめている。
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