研究実績の概要 |
キンカメムシ科とツノカメムシ科を用いた予備的な比較分析の結果,保護の進化に伴って卵のアスペクト比が高くなる相関進化が検出された。すなわち,保護を行う種は,保護を行わない種に比べて細長い卵を生産する。次に楕円フーリエ記述子に対して主成分分析を行った結果, 第1主成分(以下PC1)と第2主成分(PC2)で卵形状における分散の大部分を説明できることが明らかとなった(累積寄与率=98.6%)。PC1とPC2を軸とする形態空間を構築したところ, 保護を行う種の凸包は, 保護を行わない種の凸包とは重ならなかった。つまり,アスペクト比解析で明らかになった細長い形状に加えて,卵の上部が鈍端な形であると解釈される領域に位置した。 メス親が基質上に産み付けた卵塊を体で覆う姿勢で保護を行う種では,卵塊周辺部に対する捕食・寄生圧が高まることが明らかにされている(Eberhard 1975; Mappes & Kaitala 1994)。その結果,卵塊周辺部の卵に対する資源投資が減少し小型化する「卵サイズのクラッチ内変異」が生じていることが報告された(Mappes et al. 1997; Kudo 2001, 2006)。今年度得られた予備的な結果は,卵塊エリアを圧縮する方向に働く選択圧が,そのような卵サイズ変異だけでなく,卵形状の進化的変化にも関連していることを強く示唆している。すなわち,キンカメムシ科並びにツノカメムシ科において,メス親の防衛行動が細長い卵の進化を促したと考えられる。一方, 楕円フーリエ解析を用いた卵形状の定量化の結果, 保護を行う種の卵は上部がより鈍端な形であることが明らかとなったが,保護を行う種において, この卵の形状がどのような適応的意義をもつのか,現状では不明である。
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