研究課題
本研究では、光レドックス触媒に依存しない直接光励起による有機ラジカル発生法の確立を目指し、革新的な分子変換技術の開発に成功した。有機ラジカルは一電子移動を介した特異な反応性を示し、これを利用することで二電子機構とは異なる新たな合成戦略が可能となる。しかし従来の光レドックス触媒は触媒の酸化還元過程が複雑であり、反応効率の低下が課題であった。これに対し本研究は反応基質自体を直接光励起することで、光触媒を介さずにラジカル発生を実現し、反応過程を簡略化した。具体的には、可視光励起によって活性化されるホウ素アート錯体を設計し、炭素-ホウ素結合の選択的切断を通じてラジカルを生成する方法を開発した。この方法により、従来困難とされていた立体的に混んだ分子間の結合形成を可能にし、新たな分子合成技術の基盤を構築した。例えば、ホウ素アート錯体は、強力な一電子還元剤として機能し、ケトイミンやα-ハロカルボニル化合物と反応して選択的なラジカル-ラジカルカップリングを達成した。このアプローチにより、新たな創薬手法や化学空間探索への応用が期待される。さらに、汎用性を高めるために有機ボロン酸を用いた新しいホウ素アート錯体を設計し、PyPhenとアルキルボロン酸から形成される錯体が可視光照射によって有機ラジカルを生成することを確認した。これにより、多様なラジカル種の発生が可能となり、官能基許容性の広い合成手法を提供した。この研究成果は、基礎医学や創薬を含む多くの分野に波及効果をもたらし、持続可能な分子合成技術の発展に貢献することが期待される。直接光励起による有機ラジカル発生法の確立とその応用により、光エネルギーを利用した新しい化学反応の可能性が広がる。
すべて 2023 その他
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Journal of the American Chemical Society
巻: 145 ページ: 10651~10658
10.1021/jacs.3c00801
https://chembiolab.jp/
https://www.fos.kuicr.kyoto-u.ac.jp/