研究課題/領域番号 |
21K06689
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
池村 健治 大阪大学, 医学部附属病院, 講師 (70513935)
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研究分担者 |
奥田 真弘 大阪大学, 医学部附属病院, 教授 (70252426)
西村 有平 三重大学, 医学系研究科, 教授 (30303720)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有機カチオントランスポータ2 / シスプラチン / 難聴 / 医療リアルワールドデータ / 薬物相互作用 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
シスプラチン(CDDP)の重大な副作用である難聴は不可逆的かつQOLの著しい低下をもたらすため、治療継続の大きな妨げとなる。CDDPによる難聴の有効な予防法は未だ不十分な状況にあり、有効かつ安全な腎障害予防法の確立は喫緊の課題である。CDDPの難聴発症には、有機カチオントランスポータ2(OCT2)を介した内耳蝸牛中へのCDDPの蓄積が関与すると報告されており、OCT2阻害作用を有する薬物は、CDDPの難聴に対する予防薬となる可能性を秘めている。2021年度に、医療ビッグデータであるFDA有害事象報告(FAERS)データベース解析から、プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾール(LPZ)がCDDPの難聴を軽減できる可能性を見出した。また、ゼブラフィッシュにLPZを曝露することでCDDPによる有毛細胞障害が抑制されることを明らかにしてきた。2022年度はOCT2ノックアウトゼブラフィッシュの作製を行い、野生型とCDDPによる有毛細胞障害を比較したところ、OCT2ノックアウトゼブラフィッシュでは野生型と比較して、CDDPによる有毛細胞障害が抑制されることを明らかにした。さらに、CDDPを含む化学療法が施行された患者289名を対象とした後方視的調査によりCDDP誘発性聴覚障害に対するLPZの保護効果について検証を行ったところ、聴覚障害未発症群(n=260)では、発症群(n=29)と比較してLPZ併用患者の割合が有意に高かった。以上より、LPZはOCT2を阻害することによりCDDP誘発性聴覚障害を抑制することが示唆された。現在は、FAERSデータベース解析から同定された他の薬物を対象に、CDDPの難聴に対する予防効果の検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、OCT2ノックアウトゼブラフィッシュの作製及び検討に加え、CDDPを投与された患者を対象とした後方視的研究によるCDDP誘発性難聴に対する保護効果の検証まで終了したため。
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今後の研究の推進方策 |
【hOCT2安定発現HEK293細胞を用いたOCT2阻害効果の評価】ヒトOCT2安定発現HEK293細胞(HEK-hOCT2細胞)及び空ベクター導入細胞(HEK-vector細胞)を用い、FAERSデータベース解析から絞り込まれたランソプラゾール以外の候補薬のOCT2阻害効果を評価する。
【CDDP誘発性有毛細胞障害ゼブラフィッシュにおける有毛細胞障害に対する併用薬の評価】FAERSデータベース解析及びin vitroの実験結果に基づき、受精後5日目のゼブラフィッシュを使用して、CDDPと候補薬を2時間同時曝露後、YoPro1を用いた蛍光イメージングにより有毛細胞の蛍光量を定量し、CDDPによる有毛細胞障害に対する併用薬の保護効果を評価する。
【CDDP難聴に及ぼす候補薬の影響に関する後方視的研究】CDDPの総投与量が300mg以上の患者を対象として、in vitro実験及びゼブラフィッシュの検討から同定された候補薬のCDDPの難聴に及ぼす影響について後方視的研究を実施する。CDDPの難聴は、「難聴」、「難聴の疑い」、「感音性難聴」、「耳鳴り」と耳鼻科医師が病名登録を行った場合に、難聴と判定する。難聴発現の有無を従属変数とし、併用薬及び患者情報を独立変数に組み込んだ多変量ロジスティック解析を実施し、CDDPの難聴に及ぼす候補薬の影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定より短期間でOCT2ノックアウトゼブラフィッシュの作製に成功したため、未使用額が生じた。未使用額は、次年度の試薬購入費用に充てることとする。
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