研究実績の概要 |
卵巣奇形腫は卵由来のゲノムだけをもつため、ゲノムインプリンティング(=片親性のゲノム発現)は理論的に母性である。申請者の先行研究で、卵巣の成熟奇形腫におけるインプリント遺伝子のメチル化状態はほぼ理論どおり母性パターンであった。本研究では、未熟奇形腫におけるインプリント遺伝子のメチル化状態はどうか、分化度によって違いがあるか、また未熟奇形腫と合併することがある卵黄嚢腫瘍ではどうかについて検討した。外科切除材料のホルマリン固定パラフィン包埋切片から、成熟組織および未熟組織、卵黄嚢腫瘍成分をそれぞれ分けて採取してDNAを抽出し、methylation-specific multiplex ligation-dependent probe amplification (MS-MLPA)解析を行った。結果は以下の通りである。 1.卵巣未熟奇形腫におけるMS-MLPA解析: 4例(low-grade 1例, high-grade 3例)の卵巣未熟奇形腫について検討した。4例とも成熟、未熟いずれの組織においても全体として成熟奇形腫と同様の母性パターンを示し、分化度による違いは認められなかった。しかしながら、一部のインプリント遺伝子(MEG3, MEG8)では、成熟、未熟いずれの組織も逆のメチル化パターンを示した。4例中1例に合併していた卵黄嚢腫瘍成分は母性パターンであった。 2.卵巣卵黄嚢腫瘍におけるMS-MLPA解析: 4例の純型の卵黄嚢腫瘍について検討した。メチル化パターンはランダムで、一定の傾向は認められなかった。 以上より、卵巣の未熟奇形腫におけるゲノムインプリンティングは成熟奇形腫のそれから部分的に逸脱していることが示唆される。卵黄嚢腫瘍においては、奇形腫合併のものと純型のものではゲノムインプリンティングが異なる可能性がある。
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