研究課題
ANGPTL2によるMHC-I発現抑制機構の解明研究での準備研究の成果として、我々はANGPTL2 KDにより転座型腎細胞がん(tRCC)モデルマウス由来初代がん細胞株でのIFNg誘導性MHC-I発現が増強されることを既に明らかにしていた。そこで、ANGPTL2をノックアウトした初代がん細胞株を樹立し、ANGPTL2とIFNgシグナルのクロストークや階層性を検討した。その結果、ANGPTL2をKOした細胞では、IFNgシグナルによるSTAT1活性化には変化を認めないが、STAT1の標的遺伝子であるIRF1のタンパク質発現が亢進していることを見出した。さらに、ANGPTL2シグナル伝達に寄与する受容体を検討したところ、初代がん細胞株ではANGPTL2受容体として機能することが報告されている3種類の分子のうちインテグリンa5b1とCD146が発現しており、これら受容体のKO細胞では、ANGPTL2をKOした場合と同様にIFNgシグナルに対する感受性が亢進し、IRF1タンパク質発現が増加することが明らかとなった。また、ANGPTL2によるMHC-Iの発現抑制が、がん細胞の免疫逃避に寄与しているか検討するため、トリ卵白アルブミン(OVA)を恒常的に発現するANGPTL2 KOマウス初代がん細胞を樹立し、OT-I細胞と共培養することでkilling assayを実施した。その結果、ANGPTL2をKOした初代がん細胞株ではコントロール細胞株に比べて有意に細胞の生存率が低下した。以上より、ANGPTL2はがん細胞におけるIFNgシグナルに対する感受性を低下させることでMHC-Iの発現を抑制すること、そのメカニズムとしてANGPTL2シグナルがIRF1のタンパク質発現を抑制すること、さらに、ANGPTL2によるIFNgシグナルに対する感受性低下作用が、免疫逃避に寄与していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度における研究成果として、ANGPTL2シグナルが、がん細胞におけるIFNgシグナルに対する感受性低下に関わっていること、がん細胞におけるIFNgシグナルに対する感受性低下にANGPTL2受容体としてインテグリンa5b1とCD146が寄与していること、ANGPTL2シグナルが実際にがん細胞におけるMHC-I発現抑制を介した免疫逃避に関わっていることが示されるなど、本研究は順調に進展していると考える。
今後、インテグリンa5b1とCD146を介したANGPTL2シグナルがどのようにしてIFNgシグナルに対する感受性を変化させるかその分子機構を詳細に検討するとともに、野生型及びCKOモデルマウスの腎組織を用いて免疫染色やフローサイトメトリー解析を行い、tRCC病態進展とANGPTL2を介した免疫逃避との関連を検討する予定である。
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