がん間質の免疫微小環境はがんの生物学と密接な関係にある。免疫微小環境はがん細胞と免疫系のみならず、神経系、血管系等の多様な要因が制御に関わり、各系統間の関係性の把握が免疫微小環境のより深い理解につながる。膵がん組織内では神経密度低下が生じ、それが予後不良因子になることを示してきた。本研究では神経系の役割を中心に膵がん免疫微小環境形成・制御の理解を目指して、特に形態学的観察に基づく病理学的視点からアプローチする。 がん微小環境における交感神経および副交感神経の臨床病理学的意義はがん種類により大きく異なることが報告される中、本研究では、膵がん組織における交感神経・副交感神経、感覚神経密度の臨床病理学的意義を検討した。その結果、膵がんでは神経系により有意差をもって患者予後との関連性が認められた。そのメカニズムを探る目的で、神経密度低下膵がん組織と神経密度低下を来していない膵がん組織の2群間で網羅的遺伝子発現解析を用いて実施した。2群間で有意に発現量に差のある遺伝子には免疫関連分子があり、IPA(Ingenuity Pathway Analysis)により2群間で有意に変動のある主なパスウェーを解析したところ、神経密度低下を伴う膵がん組織ではそうでない膵がん組織に比して、免疫系パスウェーに大きな変動を来していることがわかり、神経の変化と免疫系の変動の関連性を示唆する結果が得られた。その具体的なパスウェーから、膵がん間質ではその免疫微小環境形成に特定の神経系が深く関与していることが明らかとなった。
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