研究課題/領域番号 |
21K07143
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉野 優樹 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (60755700)
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研究分担者 |
千葉 奈津子 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (50361192)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | BRCA1 / 中心体 / RACK1 / 乳がん |
研究実績の概要 |
中心体は正確な細胞分裂に必要なオルガネラであり、その数の制御はゲノム安定性の維持に重要である。遺伝性乳癌卵巣癌症候群の原因遺伝子産物であるBRCA1はDNA損傷修復のほか、中心体複製制御にも寄与することが知られている。我々は中心体制御においてBRCA1とともに働く結合分子として、RACK1を同定し、その機能解析を行ってきた。これまでに、RACK1がBRCA1の中心体内での局在部位の制御に寄与することを明らかにしている。本研究ではBRCA1による中心体複製制御機構を解明するため、BRCA1の中心体内部における局在制御機構に着目し、解析を行った。 BRCA1に対するポリクローナル抗体を用いて免疫染色を行うと、中心小体と共局在するシグナル、その周囲に中心小体よりも若干広範囲に局在するシグナル、および中心体から細胞質に向けて突出する棘状のシグナルが認められる。一方、BRCA1に対する特定のモノクローナル抗体を用いた場合、前2者のシグナルのみが認められ、棘状のシグナルは染色されないことを見出していた。これらから棘状のシグナルはモノクローナル抗体のエピトープ部位に何らかの修飾を有するものと考え、エピトープの同定を行った。抗体作成に用いられた抗原領域の断片を用いて領域を絞り込み、さらに欠損変異体を作成してエピトープを20アミノ酸領域まで絞り込むことに成功した。さらに、この領域内のセリン・スレオニン残基を変異させたところ、変異させるとモノクローナル抗体との結合性が完全に消失するスレオニン残基を同定した。 同スレオニン残基がリン酸化されたBRCA1の中心体局在を解析するため、同定したスレオニン残基がリン酸化されたペプチドを抗原に用いて抗体を作成した。これまでに作成した抗体がリン酸化BRCA1に特異的に反応することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、中心体内部に局在するBRCA1に特異的に反応すると考えられるモノクローナル抗体のエピトープ部位を同定できた。また、モノクローナル抗体の反応性に必須と考えられるスレオニン残基を同定することができ、首尾よく同スレオニン残基がリン酸化された状態のBRCA1に特異的に反応する抗体を作成することができた。すでに同抗リン酸化BRCA1特異抗体を用いて免疫染色の予備実験を行い、この抗体が中心体周囲に棘状に局在するBRCA1に強く反応する可能性を示すデータが得られており、今後の解析に有用なツールになると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
作成した抗リン酸化BRCA1特異抗体を用い、リン酸化BRCA1が中心体のどこに局在するかを詳細に観察するとともに、RACK1や他のBRCA1局在制御因子のノックダウンによってリン酸化BRCA1、非リン酸化BRCA1のどちらの局在が変化するのかを解析する。 その後、BRCA1の局在制御に関与するアミノ酸残基のリン酸化もしくは脱リン酸化に寄与するキナーゼ・フォスファターゼを探索し、これらがいつ、どこでBRCA1を修飾するのかを解析することで、BRCA1の局在制御における翻訳後修飾の時空間的な制御パターンを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
元の計画ではBRCA1の抗リン酸化特異抗体を作成する際、エピトープの選択に質量分析を用いる予定であった。しかし、中心体に局在するBRCA1を特異的に認識するモノクローナル抗体のエピトープマッピングによって、中心体におけるBRCA1の修飾残基候補を絞り込むことができたため、質量分析を行わずに抗体作成に進んだことから、その分の残金が発生した。 繰越分は次年度以降、同定したBRCA1のリン酸化残基をリン酸化もしくは脱リン酸化する酵素の同定のための質量分析などに用いる予定である。
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