研究課題/領域番号 |
21K07195
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
後藤 信治 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (50186889)
|
研究分担者 |
李 桃生 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50379997)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | がん / ミトコンドリア / カルシウムイオン / エネルギー代謝 / 酵素 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、がん特有の別々のエネルギー代謝に関与しているミトコンドリア内の三種の酵素が、カルシウムイオン(Ca2+)や2価の陽イオンで活性化することに着目した。ミトコンドリアCa2+が、がん特有の代謝の共通のマスターレギュレーターであるか否かを明らかにし、その動態制御が、がんの増殖・生存を抑制するか否かを検証することが本研究の目的である。 令和3年度は、がん特有のエネルギー代謝の内、グルタミノリシスに焦点を絞り、大腸がん細胞株HCT8のCD133陽性細胞(HCT8CD133+)を用いて研究を行った。HCT8CD133+を低栄養の条件下で培養し、siRNAを用いてα-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体(KGDHC)、グルタミン酸脱水素酵素1(GLUD1) の発現量を低下させ、各種の解析を行った。また、低栄養の条件下で培養する際に、ミトコンドリアCa2+ユニポーターの阻害剤であるルテニウムレッドやルテニウム360を培地に加え、ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害して解析を行った。さらに、HCT8CD133+にγ線照射や抗がん剤投与を行い、ミトコンドリアCa2+の動態を解析すると共に、ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害した場合に、放射線や抗がん剤の効果が増強されるかを解析した。 グルタミノリシスにおいて、GLUD1の発現抑制は細胞の増殖を著しく低下させることが報告されているが、本研究においても同様の結果を得た。siRNA投与によるKGDHCの発現抑制もGLUD1と同程度の効果を発揮した。ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害した場合は、GLUD1や KGDHCの発現抑制よりも効果は低下したが、細胞の増殖を抑制すると共に、放射線や抗がん剤の増殖抑制効果を増強した。ミトコンドリアCa2+ユニポーターの阻害剤としては、ルテニウムレッドよりもルテニウム360の方が効果的であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
グルタミノリシスに関しては、ほぼ当初の計画通り進捗した。一方、令和3年度は、グルタミノリシスの解析と同時進行で、酢酸代謝モデルの細胞株Colon-26とフマル酸呼吸モデルの細胞株Panc-1から、CD133,CD44発現を指標に抗体磁気分離法でがん幹細胞の分離を行う計画であったが、グルタミノリシスモデルの解析に予想以上の時間を要したため、がん幹細胞の分離が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、既報(Cancer Sci.2009,Yoshii et al)に従い、酢酸代謝モデルとしてマウス結腸がん細胞株Colon-26を用いる。この細胞を、通常の酸素濃度(20% O2)と低酸素(1.0% O2)で培養し実験に用いる。酢酸代謝モデルでは、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDC)と アセチルCoAシンテターゼ(ACSS2) の特異的siRNAを用いて酵素の発現量を変化させ、ATP産生量、細胞形態、細胞周期、増殖率、細胞死率を比較解析する。ATP産生量はキットで測定し、細胞形態は光学顕微鏡で観察する。また、細胞増殖率はMTT assay法で、細胞死率はLDH assay法で評価する。DNA合成能と細胞周期は、細胞にBrdUを取込ませ7-AADで標識した後、フローサイトメーターで解析する。酵素の発現量は、特異抗体を用いたウエスタンブロット法で解析する。細胞質とミトコンドリアCa2+は、Fluo4-AMとRhod2-AMをそれぞれ用い、フローサイトメーターと蛍光マイクロプレートリーダーで解析する。ミトコンドリアCa2+ユニポーターの阻害剤としては、より効果的だったRuthenium 360を用いる。代謝モデル細胞にγ 線照射や抗がん剤投与を行い、ミトコンドリアCa2+の動態を解析する。また、ミトコンドリアへのCa2+の流入を阻害した場合に、放射線や抗がん剤の効果が増強されるか解析する。加えて、酢酸代謝モデルとフマル酸呼吸モデルの細胞株から、抗体磁気分離法でがん幹細胞の分離を行い、解析を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本来、令和3年度に予定していた、酢酸代謝モデルとフマル酸呼吸モデルの細胞株からのがん幹細胞の分離が遅れたことがその理由である。(使用計画)がん幹細胞の分離が遅れたことは、技術的な問題ではなく時間的な問題であったので、次年度に繰り越した研究費は、予定通り、がん幹細胞の分離に用いる試薬等の購入に充てる。
|