研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害薬は担癌宿主のT細胞を抑制状態から解放して強い抗腫瘍効果を発揮するが、治療効果は未だ限定的である。 2023年度は、1)まず腫瘍ネオ抗原の蓄積と免疫チェックポイント阻害による抗腫瘍効果の関連について解析した。免疫チェックポイント阻害治療に対して抵抗性を示すマウス乳癌細胞 4T1を用いてゲノム編集によりDNAミスマッチ修復の鍵分子であるMLH1を欠損する細胞およびMLH1とPD-L1を共に欠損する二重欠損細胞を作成し、95日間培養した後の造腫瘍性を解析した。その結果、MLH1欠損4T1細胞は野生型4T1細胞と同様な造腫瘍性を示したが、MLH1とPD-L1の両者を欠損する二重欠損細胞では造腫瘍性が著しく減弱していた。また4種類のマイクロサテライト領域マーカー(Bat 24, Bat 26, Bat 37, Bat 67)を対象としたPCRフラグメント解析で遺伝子欠損細胞のマイクロサテライト不安定性(MSI)を解析した結果、MLH1欠損細胞と二重欠損細胞は共に全てのマーカーにおいてMSI+ と判定された。これらの結果から、95日間の培養期間中にMLH1欠損により免疫チェックポイント阻害に対して感受性を付与する腫瘍ネオ抗原が4T1細胞に出現したことが示唆された。 2)次に、汎用される医薬品のヒト免疫治療への影響を、2015年12月から2021年4月の間に兵庫医科大学病院・呼吸器内科において免疫チェックポイント阻害薬治療を受けた非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象に、副作用(irAE)の出現および治療効果を指標に後方視的観察研究を実施した。統計学的な解析の結果、対象としたNSCLC患者コホートにおいて、特定の医薬品の併用がirAE出現と治療効果の両者に対して抑制的に作用していることが示唆された。
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