研究課題/領域番号 |
21K07243
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堀岡 宏平 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (10783699)
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研究分担者 |
寅田 信博 九州大学, 大学病院, 臨床検査技師 (00398075)
三好 圭 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (70755272)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膵癌 / 腫瘍促進性好中球 / 腫瘍微小環境 / 癌間質相互作用 / 膵星細胞 / オートファジー / 抗体医薬 |
研究実績の概要 |
腫瘍微小環境に存在する免疫細胞は癌の進展に深く関与するが、免疫細胞の中で多数を占める好中球の膵癌腫瘍微小環境中での役割は不明な部分が多い。好中球は、活性酸素を介した細胞殺傷効果を示す一方、癌組織では好中球系の細胞が微小環境中の他の細胞との相互作用により腫瘍の増殖・阻害いずれにも関与していると報告がある。本研究の目的は、膵癌間質の腫瘍な構成要因である膵星細胞の特定の集団が、好中球の腫瘍微小環境中での役割、特に腫瘍促進性の好中球への分化に作用しているかを解明することである。具体的には腫瘍組織中の好中球の機能、および末梢血の好中球との形態や機能の違い、さらに腫瘍促進性好中球の分化に関与する間質細胞集団の同定を進める。まず、ヒト膵癌組織の免疫染色を行い、腫瘍組織中の好中球を評価したところ、好中球の発現が高い膵癌患者は好中球の発現が低い膵癌患者と比べて、予後が不良であることを確認した。次に好中球と、膵癌細胞からの上清を投与してpolarizationした好中球をそれぞれ膵癌細胞株と共培養したところ、polarizationした好中球は抗腫瘍活性が減少し、膵癌細胞の浸潤能、遊走能が増強された。また、polarizationした好中球はウエスタンブロットでLC3、p62の増加を認めオートファジーフラックスの亢進が示唆された。さらに、polarization前に好中球のオートファジーを抑制すると、好中球のpolarizationが阻害され共培養した膵癌細胞の増殖が抑制された。これらの結果より、好中球の抗腫瘍活性と腫瘍促進性には腫瘍微小環境中の因子が関与しており、好中球のオートファジーが膵癌の浸潤を促進しているが可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は腫瘍組織中の好中球の機能、腫瘍促進性好中球の分化について検討した。好中球に膵癌細胞株を培養した上清を添加すると好中球がpolarizationされ、オートファジーが亢進し腫瘍促進性に作用していると考えられた。現在、マウス由来膵癌細胞を同所移植した担癌マウスの腫瘍内好中球と末梢血中の好中球との違いをマイクロアレイを用いて解析し、腫瘍促進性好中球に関わる因子を検討している。また、腫瘍促進性好中球の分化に関わる間質細胞集団の同定も進めており、本研究の進捗としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果をもとに、膵発癌マウスモデルにおける腫瘍促進性好中球の同定を行う。まずは担癌マウスモデルから得られた膵星細胞と好中球を共培養した際の好中球の形態、変化を確認する。好中球浸潤の強いモデルから膵星細胞を単離し、この膵星細胞における表面マーカーを含む発現因子の違いをマイクロアレイを用いて網羅的に解析し、発現変動の見られたマーカーを標的候補とする。この表面マーカーを持つ膵星細胞をフローサイトメーターで単離し、これらと好中球を共培養した際の好中球の形態、変化を確認する。さらにサイトカインアレイ、プロテインアレイを用いてこれら膵星細胞が放出するセクレトームを網羅的に解析する。得られた結果をもとに、好中球にこれらのメディエーターを投与した時の形態変化を観察する。また、癌細胞との共培養で癌細胞の増殖や浸潤能が変化するかを検討する。最終的には腫瘍促進性好中球に関与する特定の膵星細胞が有する表面マーカーに対する抗体医薬の開発を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画はおおむね順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。 次年度は培養用試薬、器材等の費用に使用する予定である。
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