研究課題/領域番号 |
21K07304
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
獅子王 信江 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 助教 (50420401)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経再生 / 遺伝子改変マウス / 脂質 / コレステロール / 末梢神経 |
研究実績の概要 |
末梢神経は挫滅後、損傷部位から新たに軸索伸長が始まり、神経機能が回復する。この末梢神経再生には脂質の量的増加および膜流動性の変化が必然的に伴うが、脂質量制御機構についてはほとんど明らかになっていない。神経損傷後の神経核において、細胞膜のコレステロールを排出するATP-binding cassette transporter A1 (ABCA1)の著しく発現上昇することを発見し、本研究では再生神経におけるABCA1遺伝子の機能を明らかにすることを目的とした。 ABCA1は組織全体にユビキタスに発現しており、コンベンショナルKOマウスでは損傷前より血液中の脂質組成、細胞膜上の脂質組成が野生型と異なるため、神経損傷時の必要性が明確に理解することが困難である。そこで、神経損傷特異的に発言するAtf3のプロモーター下流にGFPとCre recombinaseを発現するAtf3:BAC Tgマウスを入手し、floxed Abca1マウスと交配させることにより、神経が損傷したニューロンでのみAbca1遺伝子が欠損し発現が抑制されるコンディショナルマウス(Abca1 CKO)を作製した。 Abca1 CKOマウスは、神経切断、神経挫滅ともに損傷3日目にはコントロール(無損傷)側と同レベル以下にまでmRNA及びタンパク質の発現量低下が確認でき、目的とするAbca1 CKOマウスが得られた。これらAbca1 CKOマウスの対照としてAtf3:BAC Tgマウスを7週齢の雄を同匹数準備し、以下の神経再生視点について表現型を比較解析した。坐骨神経繊維の再生開始速度について調べたところ、再生神経繊維の損傷部位からの長さは両者において有意な差は見られたなかった。損傷後の坐骨神経から後根神経節を取り出し初代培養をしたところ、Abca1 CKOマウスでは対照マウスよりも神経突起の分枝の増加が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Abca1 CKOマウスにおいて損傷神経特異的な発現低下の確認を行った。計画では、in vivoにおける神経再生についての表現型の解析を令和3年度に計画をしていたが、令和5年度に計画していたin vitroの解析である坐骨神経後根節の初代培養における形態変化観察は、条件検討に時間を要すると見込んでin vivo実験と並行して行っていたところ、令和3年度内に形態の違いを見つけることができた。
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今後の研究の推進方策 |
Abca1 CKOマウスの神経再生時における表現型解析を引き続き行う。計画通り、令和4年度内に神経再生に係るin vivoの表現型の解析を行う。神経再生終焉における神経筋接合の時期と正確性について、より明確に神経筋接合を調べることができる舌下神経を対象とする。片側の舌下神経に挫滅損傷を施し、週ごとに舌を摘出、舌筋肉上のシナプス後膜と軸索終末部をそれぞれ蛍光免疫染色する。それらの共局在率を算出し、評価する。適時、サンプルを摘出し、凍結保存を行っている。神経再生についての運動機能回復については、片側の坐骨神経を挫滅損傷させたのち、1週間ごとに足跡と歩行を撮影し、個体ごとの損傷側脚の変形、歩行スピードを算出する。これらも、一度には同週齢マウスを多数準備することが困難なので、得られたマウスの組について毎週歩行させ、損傷後5週間の歩行データを取得している。これらも継続して、サンプル数を増やし、有意差検定を行う予定である。また、神経再生開始速度検定について、損傷部位からの再生神経繊維の長さには有意差が得られなかったが、in vitroにおいてAbca1 CKOマウスで分枝の増加が見られたことにより、再生神経繊維の本数について、注目し、再び画像解析を行う予定を立てている。視点を変えることで、神経再生に現れるABCA1の表現型を追求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍であることから当初予定していた研究相談のための旅費について、オンライン討論をすることで使用する必要がなくなった。また、十分に発表できるデータが得られていなかったことから、学会発表を控えたため、発表のための旅費を必要としなかった。
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