末梢神経は挫滅後、損傷部位から新たに軸索伸長が始まり、神経機能が回復する。この末梢神経再生には脂質の量的増加および膜流動性の変化が必然的に伴う が、脂質量制御機構についてはほとんど明らかになっていない。神経損傷後の神経核において、細胞膜のコレステロールを排出するATP-binding cassette transporter A1 (ABCA1)が著しく発現上昇することを発見し、本研究では再生神経におけるABCA1遺伝子の機能を明らかにすることを目的とした。本研究では、 神経が損傷したニューロンでのみAbca1遺伝子が欠損し発現が抑制されるコンディショナルマウス(Abca1 CKO)を作製し、令和3年度において神経切断、神経挫 滅ともにABCA1のmRNA及びタンパク質の発現量低下の確認、 損傷後の坐骨神経から後根神経節を取り出し初代培養をしたところ、Abca1 CKOマウスではコントロールマウスよりも神経突起の分枝の増加を観察した。しかしin vivoにおける軸索再生スピードや運動機能回復について顕著な差は観察されなかった。令和5年度において、脂質過多の生体性質を持つ場合ならコレステロール制御遺伝子であるABC1が関与する可能性が高いと考え、Abca1 CKOマウスに高脂質飼料を与えて生育し、神経損傷時における軸索の再生について比較検討を行ったが、コントロールと比較して有意な差は観察されなかった。一方で、神経系培養細胞であるNuero2AにヒトABCA1(hABCA1)を強制発現させたところ、コントロールと比較して有意に神経突起の伸長が見られる細胞が多かった。そこで、ABCA1について知られている変異型を用いて強制発現をさせてみたところ、C末側に形態変化に関与する領域があることを明らかにした。
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