研究課題/領域番号 |
21K07418
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
松浦 英治 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (30598800)
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研究分担者 |
高嶋 博 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (80372803)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 痙性脊髄麻痺 / HTLV-1キャリア / HAM/TSP / 疫学 / 発症年齢 / 早期診断 |
研究実績の概要 |
近年, HTLV-1関連脊髄症(HAM)の診療は「抗炎症」療法が重要視され, 2019年HAM診療ガイドラインでも髄液中CXCL10値等を参考に脊髄内炎症の程度に応じた抗炎症治療を行う事が推奨された。HTLV-1による脊髄炎症がHAM発症の以前から生じており、それを確認できれば、運動障害を呈するHAM患者に施される治療を診断基準を満たさないような患者にも治療windows opportunityを拡大し, 臨床的発症を遅延させることが可能かもしれない。その為に、具体的には無症候性キャリア剖検脊髄内に特異的炎症が本当に存在するか、そしてそれがHAMの臨床診断基準を満たさない患者の臨床検体でも検出可能か明らかにする必要がある。更に患者レジストリデータを解析し,抗炎症剤等の使用歴がHAM発症時期を遅らせることがありうるのか明らかにすることとした。本年度はHAMの発症特性とともにキャリア脊髄の炎症について検討した。出生世代間に免疫学的差異があるか検討するために出生世代別の感染者数と発症率算出を試みた。まず我々は本地方に於いてHAM患者発症年齢が50歳を中心として正規分布用に広がることを明らかにし、この発症の多い世代はもともとの感染者の多い出生世代だった可能性があるため疫学的手法を用いて本地域における世代別HTLV-1キャリア数を推計しHAM発症率を算出することを試みた。その結果本地域に8万人の感染者がいることを明らかにし論文報告した(AIDS Res Hum Retroviruses. 2022 Feb 14)。また、このデータをもとに感染者数と発症年齢の関係を検討し、感染者数によらないHAM発症年齢があることが明らかとなった。次に脊髄内のHTLV-1特異的炎症の確認を試み、キャリア脊髄を確保の上凍結切片を用いた免疫染色により特異的T細胞の存在を確認することに成功した。794
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発症前患者の炎症反応について調査するために診断基準をみたさないHAM患者の生体試料リクルート、具体的には下肢筋力低下の無い運動障害患者の生体試料リクルートはすでに現在数名の試料が集まっており順調といえる。特に下肢筋力のない、あるいは痙性のない患者をリクルートするために過去の患者の解析を行い、診断基準を満たさない患者一群のプロフィールを明らかにすることができ、この点についても発表準備中である。また、キャリアにおけるHTLV-1特異的T細胞による脊髄炎症の有無について実際のキャリア脊髄で特異的CTLの確認に一部成功している。発症に関する因子解析にあたり世代間における免疫学的差異を検討するための基礎情報として世代別の感染者数・発症率を明らかにする必要があったが、これについてはすでに解析が終了し、この部分についても論文報告済であり、予定通りの進捗状況といえる。さらに同結果は本地方における疫学調査としては2007年以来の推計であり本県の公衆衛生上重要な知見であるため本地域医師会HP上で医療従事者向け教育動画のなかで2022年度に入り公開中であり、地域の医療従事者に対する基礎情報提供という形で社会的貢献を果たすことができた。一方、レジストリを使った内服薬と進行の度合いに関するデータ解析研究については最も重要となる解析プロトコール作成を作成中であり具体的な解析トライは次年度の予定である。 596
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今後の研究の推進方策 |
上述のように診断基準を満たさないpre-HAM状態といえる患者サンプルの収集が順調に進んでいるが、収集できる生体試料の数をさらに増やすためにリクルートをつづける。また、そのキャリア脊髄におけるHTLV-1特異的炎症の可視化に成功しており、これも同様に症例数を増やす予定である。基礎情報となる地域的患者発症状況に関する疫学的検討は終了したが、HAM患者レジストリを用いた薬剤と発症経過に関する検討についてはプロトコールができ次第データ解析依頼する予定である。 228
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