研究課題/領域番号 |
21K07499
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
谷井 久志 三重大学, 保健管理センター, 教授 (40346200)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | パニック症 / 非対称性指数 / 遺伝子多型 / 遺伝子・環境相互作用 / 拡散テンソル画像 |
研究実績の概要 |
(1) パニック症とライフイベントおよび遺伝的因子の関連についての検討: パニック症におけるライフイベントと遺伝的特性の関与についてCOMTVal158Met遺伝子型を2群(Val/Val群、Metキャリア群)に分類し、ライフイベントとの相互作用を調べた。ライフイベントを経験したパニック症患者において、Val/Val群ではTCIの新規性探求(NS)が低値となり、Metキャリア群では高値を示した。自己指向性(D)の下位尺度である目的指向性(D2)と自己受容(D4)についても同様の相互作用を認めた。Metキャリア群はトラウマ的な出来事の経験者の方が、未経験者より肯定的な結果を示したが、この点についてMetキャリアは感情刺激の柔軟性に欠ける遺伝的素因を反映していると解釈が可能であり、パニック症における遺伝子・環境相互作用におけるCOMT遺伝子多型の関与の可能性を示唆している。 (2) 拡散テンソル画像を用いた脳内ネットワークの検討:3T MRI装置を用いて、パニック症患者と健常対照被験者の 3T MRI装置を用いて脳内神経束の比較検討を行った。その結果、左右の非対称性指数より統計解析ソフト(SPSS)を用いてパニック症と健常者を比較検討した。その結果、パニック症患者は健常対照者と比較して、上縦束群(SLF)のFA値の非対称性指数が有意に高かった。右前視床放射のFA値と左海馬体積との特異的な相関は、パニック症患者では健常者に比べて弱かった。先行研究ではうつ病とともにパニック症においてもSLFと前視床放射における有意な白質の局所的な統合性の変化(低下)が報告されており、パニック症の''恐怖ネットワークモデル''においてSLFが重要な役割を果たしているとされている。今回の結果でもパニック症において脳内の不安や恐怖を司る神経経路が関係していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常者、パニック症ともに約600例以上のサンプルサイズがあり、その各々について不安感受性などの心理特性や遺伝子解析によるデータの蓄積が行なわれている。また約40例についてはMRIテンソル画像解析、FreeSurfer解析と遺伝子解析、各種心理検査が施行されており、脳機能などにおける不相称性に関する検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
パニック症の発症や発症後の経過に関係する疾患関連要因(脆弱因子)を見出すべく研究を発展させていきたい。具体的には心理社会的因子や発症後の脳内ネットワーク障害(拡散テンソル画像)や前頭葉機能異常(NIRS研究)、特にその非対称性に影響を与える遺伝的因子との関連性を検討する。また遺伝的要因と心理指標との関連について因子分析や主成分分析などの統計手法を用いてパニック症に特異的に関与する要因を探っていく。 脳の構造画像解析としてFreeSurferによる解析や拡散テンソル画像解析を継続的に行う。本研究においてはパニック症の脳機能の不相称性に着目し、非対称性指数による定量化を適用する。また局所的な連関の障害とともに脳構造に疾患が与える影響についてライフイベントなどの遺伝環境相互作用の検討を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)学会の一部がオンライン化されており、その分の出張旅費が不要になったこと、その他、オンラインの活用などで研究打ち合わせの出張の機会も減じたことなどの理由で支出額が減じた。遺伝子解析のための経費や新たな画像解析系ソフトや統計処理ソフトについて当初予定の経費がかからなかった。 (使用計画)収集したデータ解析の経費、成果発表に充当する予定である。
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