現在日本で使われている抗うつ薬は、モノアミンに関連する薬理作用を持った薬物しかなく、薬物治療では難治性のうつ病患者もいることから、これまでとは異なった薬理作用を持った抗うつ薬の開発が望まれている。研究代表者はこれまでに、リゾホスファチジン酸(LPA)1受容体作動薬がモノアミンとは異なる薬理作用を持った新たな抗うつ薬になる可能性を見出した(Kajitani et al. 2016)。得られた成果を基礎研究で終わらせることなく臨床へと橋渡しするために、本研究ではドラッグリポジショニングを活用し約1600の既存薬からスクリーニングを行い、治験に繋がるLPA1受容体作動薬を同定することを目的とした。 本研究課題進行中に、LPA1受容体作動薬の中でもGタンパク質バイアス型LPA1受容体作動薬が抗うつ効果に重要であることを明らかにしたため、Gタンパク質バイアス型LPA1受容体アゴニストをスクリーニングするように修正し、2022年度までに段階的なスクリーニングを経て約1600化合物から63化合物まで絞った。 2023年度は、上述のバイアス型アゴニストが抗うつ効果に重要であることを示した研究成果を査読のある英文雑誌で発表した。さらに、上述のスクリーニングを進め、約10化合物まで絞った。LPA1受容体アゴニストであることを特定するために、これまでとは別のアッセイ系を立ち上げ、上述の選別した化合物リストの中から特に活性の強いLPA1受容体アゴニストを特定するに至った。 一方で、特定したアゴニストはバイアス型アゴニストではなく治療薬候補薬物としては不十分であった。今後はアッセイを行う化合物の数を拡大し、バイアス型アゴニストの探索を続けて行く予定である。
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