研究課題/領域番号 |
21K07880
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研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
林 深 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 部長 (50596244)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ゲノム医学 / 臨床遺伝学 / 発達障害 / 疾患モデルマウス |
研究実績の概要 |
神経発達症やてんかんなど、主に発達障害を呈する遺伝性疾患は全人口の数%に存在する。次世代シークエンサーなどのゲノム解析技術により、疾患原因と考えられるゲノムバリアントの検出は飛躍的に容易になってきた。しかし、そのバリアントがタンパク・細胞・組織・生体レベルで引き起こす病態機序の理解は相対的に遅れており、特に病的意義の不明なゲノム変異 (VUS)の評価については、現時点では有効な方法がない。そこで本研究では、ゲノム編集試薬を妊娠マウスの受精卵に直接導入し、目的とするゲノムバリアントを正確に模した遺伝子改変マウスを最短19日で作出する技法であるiGONAD法により、迅速かつ正確な疾患モデルマウスを作出することによって、当該VUSがどのように個体・組織レベルでどのように遺伝子機能を障害し、発生発達に影響するかを評価する。即ち本研究は、直接的かつ迅速にVUSがpathogenicであるかbenignであるかを判定する系を構築し、遺伝性疾患におけるゲノム解析の結果をより有効に活用して遺伝性疾患の理解を拡げるものである。今年度は5遺伝子における10系統のモデルマウス作出に成功した。特に、研究計画に記した遺伝子のうち、2遺伝子 (CTNND2, TENM4)については目的とするノックインマウスのほかノックアウトマウスも作出し、タンパクレベルの評価を既に行っているほか、戻し交配を行って表現型の差異を評価する準備をしている。R3HDM1については目的としたノックアウトマウスのほか遺伝子ないマイクロRNAのノックアウトマウスも作出し、片方または両方の発現低下が表現型に与える差異を評価している。その他、臨床との連携により新規に見いだされた疾患の原因バリアント候補についても、漸次モデルマウス作成の候補に繰り込み、作成準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究所年度が終了し、概ね研究は順調に進展している。申請時の研究計画に沿って進捗状況を示す。 1) 発達障害を呈する遺伝性疾患におけるVUSの収集と解析:研究協力者である遺伝診療科医師たちとの症例検討から、既知の遺伝性疾患の原因となるゲノムバリアントを有する3症例において、これまでに報告されていない特徴的な進行性の症候を見いだした。また、IRUDにおけるwhole exome sequencing (WES)の解析結果から、筋力低下と発達遅滞を伴う家系例解析において有力な候補となるバリアントを機能不明な遺伝子に見いだした。これらはいずれも本研究に繰り入れ、モデルマウスの作成を行っている。 2) i-GONAD法を用いた遺伝子改変マウスの作出と評価:これまでに5遺伝子10系統の疾患モデルマウスの作出に成功した。作出はICR系統のマウスで行ったためC57BL/6系統に戻し交配を行いつつ、タンパク・細胞レベルでの評価を行っている。研究計画に記した遺伝子の中で特記すべき成果としては、 TENM4については目的とするノックインマウスのほかノックアウトマウスも作出し、RNA・タンパクレベルで発端患者に見られたエクソンスキップまたは発現低下が再現できたことを確認している。CTNND2についてもKI,KOの両マウスを作成し、同様の検討を施行中である。また、R3HDM1については目的としたKOマウスのほか、R3HDM1内にあるマイクロRNAのノックアウトマウスも作出し、片方または両方の発現低下が表現型に与える差異を評価している。これらと平行して、1)で見いだされた新規バリアントのマウスも作成中である。 なお、致死性となる遺伝子改変マウスは経験していないため、計画していた「CRISPR/Cas9を用いたモデル細胞作製」は現時点では行っていない。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子改変マウスの作成を継続し、目的とするゲノムバリアントを有するマウスが得られ次第、ゲノム・RNA・タンパクレベルで発端患者のバリアントを再現しているかどうかを確認する。目的に合致するマウスはC57BL/6系統に戻し交配を行う。既に目的の遺伝子改変マウスが得られている系統については、戻し交配が終わり次第、漸次マウスのマクロでの評価を行う。即ちマウスの体長・体重や外表奇形の有無、脳サイズや神経細胞数、大脳皮質層構造の組織学的検討などであり、それぞれが発端患者の表現型に類似するか判断する。行動面については、学習記憶や社会行動などを評価し、患者の精神運動発達と比較する。患者がてんかんを呈する場合はpentylenetetrazoleなどの薬剤誘発による痙攣の頻度や持続時間などを測定するほか、パッチクランプ法による電気生理学的な検討を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はコロナ禍のため物流がしばしば滞り、特に海外とのやりとりには時間を要した。iGONAD法に用いるゲノム編集試薬はアメリカの企業に発注し、シンガポールのオフィスで合成・発注する流れになっているため、年度内での納品が間に合わないモノについてはやむを得ず次年度の発注にするなどしたため、次年度使用額が生じた。
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