研究課題/領域番号 |
21K08001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒川 憲 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (40868999)
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研究分担者 |
早河 翼 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60777655)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 粘膜恒常性 / 杯細胞 / 消化管幹細胞 / Wnt / Lgr4 |
研究実績の概要 |
杯細胞はムチン分泌を介して粘膜表層の粘液層を構成し、管腔免疫防御に貢献する。一方で、近年の消化管幹細胞研究により、杯細胞系統の一部は幹細胞を支持したり、粘膜障害に伴う幹細胞消失を契機として脱分化し、幹細胞性をもつことが示唆されている。本研究では、消化管粘膜恒常性における杯細胞系統の役割を、遺伝子改変マウスモデルを用いて明らかにすることを目的とした。 1)杯細胞による粘膜恒常性維持機能の解析に関しては、杯細胞系統を選択的に標識・アブレーション可能なTff3dsRED-DTRマウスと各粘膜上皮構成細胞の細胞系譜解析が可能なレポーターマウスの交配を進めている。杯細胞アブレーションすると、Lgr5+幹細胞が減少し、杯細胞が幹細胞の維持に重要である可能性が示唆された。今後は複数の粘膜傷害モデルにおいて、杯細胞アブレーションの有無で粘膜障害や再生の程度に差が生じるか検討し、加えて細胞系譜解析にて子孫細胞供給への影響を検討する。また、杯細胞アブレーションによる幹細胞・前駆細胞の遺伝子発現変化や管腔内細菌叢への影響を解析予定である。 2)Lgr4を機転とする杯細胞系統のWnt活性化と脱分化機構の解析に関しては、Bhlha15+分泌系前駆細胞において特異的にLgr4を欠損すると、DSS腸炎モデルにおいて、コントロールマウスと比較して体重減少や粘膜障害が増悪傾向であった。細胞系譜解析では、Bhlha15+分泌系前駆細胞で特異的にLgr4欠損するとパネート細胞が著減しており、消化管幹細胞ニッチとして重要なパネート細胞の維持にLgr4が必須であることが示唆された。また、Tff3dsRED-DTR; TcfEGFPマウスを用い、複数の粘膜傷害モデルにおいて杯細胞内のWnt活性化を経時的モニタリングし、Tff3陽性細胞をWnt活性化に応じて層別化してFACSで抽出し、各群の遺伝子発現解析を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)杯細胞による粘膜恒常性維持機能の解析に関しては、遺伝子改変マウスの交配を進め、現時点でTff3dsRED-DTR;Lgr5CreERT-EGFP;R26Tomatoマウスが完成し、加えて、Tff3dsRED-DTR;Bhlha15CreERT;R26Tomatoマウスを作成中である。完成したTff3dsRED-DTR;Lgr5CreERT-EGFP;R26Tomatoマウスにジフテリア毒素を投与し、杯細胞を高効率にアブレーション可能であることを確認した。また、杯細胞アブレーションを行うと、Lgr5+幹細胞が減少しており、杯細胞が幹細胞の維持に重要な働きをもつ可能性が示唆された。 2)Lgr4を機転とする杯細胞系統のWnt活性化と脱分化機構の解析に関しては、現時点でBhlha15CreERT;Lgr4flox/flox;R26TomatoマウスおよびLgr5CreERT-EGFP; Lgr4flox/flox; R26Tomatoマウスが完成し、加えて、Bhlha15CreERT;Fzd5flox/flox; R26TomatoマウスおよびTff3dsRED-DTR; TcfEGFPマウスを作成中である。Bhlha15+分泌系前駆細胞で特異的にLgr4を欠損すると、コントロールマウスと比較してDSS投与後に体重減少や粘膜障害が増悪する傾向を認めたが、Lgr5+幹細胞で特異的にLgr4を欠損してもコントロールマウスと比較して明らかな差は認めなかった。また、細胞系譜解析では、Bhlha15+分泌系前駆細胞で特異的にLgr4欠損するとパネート細胞が著減しており、消化管幹細胞ニッチとして重要な働きをもつパネート細胞の維持にLgr4が必須であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1)杯細胞による粘膜恒常性維持機能の解析に関しては、現時点で完成しているTff3dsRED-DTR;Lgr5CreERT-EGFP;R26Tomatoマウスを用い、DSS・ドキソルビシン・NSAIDsといった複数の粘膜傷害モデルにおいて、杯細胞アブレーションの有無で粘膜障害や再生の程度に差が生じるか検討し、加えて、Lgr5+幹細胞の細胞系譜解析を行う。同様に、Tff3dsRED-DTR;Bhlha15CreERT;R26Tomatoマウスにいても、Bhlha15+分泌系前駆細胞の細胞系譜解析を行い、杯細胞アブレーションによる子孫細胞供給への影響を検討する。さらに、杯細胞アブレーション後の幹細胞・前駆細胞をFACSで抽出し、杯細胞消失による遺伝子発現変化を検討する。FACSや免疫染色により、杯細胞の消失による粘膜内免疫細胞への影響を検討する。また、糞便または粘膜の16SrDNA解析を行い、杯細胞の消失による管腔内細菌叢への影響を検討する。 2)Lgr4を機転とする杯細胞系統のWnt活性化と脱分化機構の解析に関しては、Bhlha15CreERT;Lgr4flox/flox;R26Tomatoマウス、Lgr5CreERT-EGFP; Lgr4flox/flox; R26Tomatoマウス等を用い、引き続き複数の粘膜障害モデルにて粘膜障害・再生の程度の確認や細胞系譜解析を行う。また、Bhlha15+細胞で特異的にLgr4を欠損後のパネート細胞をFACSで抽出し、遺伝子発現解析を行う。加えて、Tff3dsRED-DTR; TcfEGFPマウスを用い、複数の粘膜傷害モデルにおいて杯細胞内のWnt活性化を経時的モニタリングし、Tcf-EGFPの発現状態に応じてTFF3陽性細胞を層別化してFACSで抽出し、各群の遺伝子発現解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の在庫が少なく納入が翌年度になるものがあったため繰り越しが発生した。 在庫が納入され次第、改めて発注予定。
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