研究課題
ミトコンドリアの電子伝達系で発生したスーパーオキシドアニオン(O2-)はSODによってH2O2に変換されるが、GPxは発生したH2O2を消去する酵素の一つである。GPxの酵素活性に必要なグルタチオンは、グルタチオンそのものとして細胞間に輸送される。しかし、拍動している心臓の細胞外画分の代謝物分析は技術的に困難である。この技術的な障壁のために、心筋梗塞や再灌流時の傷害部位におけるこのような含硫代謝物の放出、輸送、取り込みに関する知見はない。我々は、ラット虚血再灌流モデルにおいて、拍動心筋からのマイクロダイアリシスとメタボローム解析を組み合わせ、損傷部位で放出される代謝物の時間的・包括的解析を行った。この方法により、正常状態、LAD結紮による心筋梗塞、再灌流時の同一ラット心臓において、細胞外メタボロームを経時的(10分ごと)に収集・比較することが可能となった。その結果、虚血時及び再灌流後に細胞からグルタチオンが著しく放出されることを明らかにした。虚血再灌流のin vitro心筋細胞モデルにおいても、細胞外へのグルタチオン放出とそれに伴う細胞内グルタチオン濃度の減少が観察された。この細胞外グルタチオン放出は、multidrug resistance protein 1(MRP-1)を中心とするグルタチオントランスポーターの阻害あるいは発現抑制により阻止された。また、MRP-1阻害剤の投与により、細胞内活性酸素濃度および脂質過酸化が減少し、in vitroでの細胞死が抑制された。最後に,マウスにMRP-1阻害剤の静脈内投与を行うと、虚血時および再灌流時のグルタチオンの細胞外排出を抑制し、細胞内グルタチオン濃度が保たれること、in vivoでの虚血再灌流障害を抑制することが示された。
2: おおむね順調に進展している
順調に研究を進めている。
虚血時、再灌流時に細胞外にグルタチオンを放出するメカニズムの詳細(MRP活性化の機序のなど)を検証する。また、細胞外に積極的に放出されたグルタチオンの意義について、心筋細胞以外の細胞とのインターラクションに注目した解析を行う。
本年度は、マウスモデルの確立などを進めており、年間の研究費使用が予定よりは少なく経過した。次年度は確立したモデルを使って解析を進めていく。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (2件)
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