研究課題
我々は、心臓における代謝の空間的イメージングおよび経時的変化の可視化を実現させ、虚血再灌流障害時に、細胞内レドックスの制御に重要なグルタチオンの積極的な細胞外への放出を発見した。グルタチオンは肝臓における有害物質の抱合・解毒という古典的な役割だけでなく、細胞内と細胞外で局在を変えることで、細胞および臓器単位での恒常性を維持していることが報告されており、心臓においてもグルタチオンの細胞外への放出を介して、細胞間質に存在する細胞と密に連携し、心筋細胞の品質が維持される可能性がある。特に、虚血再灌流時にみられたグルタチオンの積極的な細胞外への放出は、細胞内の極度のストレス状態を細胞外に伝える警告シグナルの働きの可能性が示唆される。虚血再灌流障害におけるグルタチオン放出の生理的意義を解明し、虚血再灌流障害の新たな治療戦略の開発を目指す。我々はこれまでに、① 心臓におけるグルタチオンの細胞外放出のメカニズムの検証及び新たな生理学的意義の解明:これまでに、細胞内外のグルタチオンの輸送をつかさどるトランスポーター(multidrug resistance-associated protein(MRP)など)がいくつか知られている。各種トランスポーターの 心筋細胞での発現を確認するとともに、inhibitorやsiRNAなどを用いて、ラットの初代心筋培養によるin vitro研究及びin vivo 代謝時空間イメージングを行い、細胞内外のグルタチオン関連物質の動態に関して質量分析計で評価した。また、in vivoで、これらトランスポーターの制御が、虚血再灌流障害を抑制するかを検証した。② 虚血再灌流障害によるフェロトーシスの役割を生体組織の適応機構を検証し、①で発見したMRPinhibitorによる、虚血再灌流障害への影響や、その投与時期の検討を進めた。
2: おおむね順調に進展している
特に遅延せずに、進められている。
① これまでに還元型グルタチオンがマクロファージを活性化することが報告されており、 心筋細胞外に放出されたグルタチオンが他の細胞に何らかのシグナルを伝達している可能性が示唆される。そのため、放出されたグルタチオン が、周囲の免疫細胞や自律神経系の細胞に対するシグナルとして機能し、免疫制御活性化や自律神経系の活性化を誘導し、それに続く心腎連関 や心脳連関を介した心臓の生体制御への影響を検証する。② 心筋細胞内レドックスのイメージング技術の開発:グルタチオンのターゲットである、細胞内の酸化物質のイメージングを行うため、Mito Bを用いたミトコンドリア由来の活性酸素の定量および質量分析計を用いた局在評価、さらには、18O2を用いた活性酸素や過酸化脂質の生成( →フェロトーシス)のトレーシングを行い、in vivo 4次元レドックスイメージングを実現する。③300を超える酸化脂質のライブラリを作成しており、脂質解析により、虚血再灌流モデルの時間軸での酸化脂質の変化(動態)を評価するとともに、新しい治療ターゲットを検討する。
本研究を進めるにあたり、前年度の繰り越し分も使用しながら、慎重に研究を進めた。当初予算通りの施行をおこなった。本年度の研究で、酸化脂質に関する新しいデータが出たため、その解析費用を当初よりも上乗せして計上し、次年度は、下記の計画にて研究を前にすすめたい。酸化脂質解析100万円,マウス購入代 60万円,試薬代 約30万円
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件)
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