研究課題
心筋障害部位での超急性期の代謝の継時的な変化については、代謝がドラスティックかつ急速に変化するため、代謝の変化を正確に評価することが困難であった。そこで、透析膜を用いた同一個体での細胞外の代謝変化を連続的に測定する技術である心臓マイクロダイアリシス法を開発した。半透膜の特性を利用して、心筋間質に存在する低分子生体内物質を、中空糸状透析膜を介して灌流液中に分離採取する方法である。Wistarラットの心筋内に透析膜を中央に配したカテーテルを留置し、冠動脈閉塞・再灌流中の、細胞外の代謝産物を経時的に質量分析器にかけ、各時相での代謝産物を網羅的に解析し、IR時の代謝のダイナミクスな変化を明らかにした。これらの技術を通して、虚血及びIR早期に、還元型グルタチオンが、MRP1 (Multidrug resistance-associated Protein 1)を通して積極的に細胞外に放出されていることが判明した。逆に細胞内のグルタチオンは再灌流後早期に枯渇し、連鎖的脂質過酸化反応の防御機構として働くGPX4の活性が急速に低下し、Liperfluoを用いた酸化脂質の蓄積は確認された。さらに、我々が保有する465種の酸化脂質ライブラリを用いて、虚血再灌流障害の過程でどのような種類の酸化脂質が、どの時相で、どれほどの量生成し、心筋細胞死にどの程度寄与するのかを高分解能質量分析により包括的に解析した。その結果、心臓では、IR6時間以降と遅発性のタイミングで、フェロトーシスにつながる脂質アルコキシルラジカルが蓄積することが確認された。一方、Fer-1(フェロトーシス阻害薬)を、IR後3時間という遅れたタイミングで投与してもIR障害が抑えられることが明らかになった。さらに、この効果は、MRP1の薬理学的な阻害によって、細胞内還元型グルタチオンの細胞外への放出を抑えることでも観察できた。
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Circ Res.
巻: 27 ページ: 861-876
10.1161/CIRCRESAHA.123.323517.