2023年度は、直近2年間で新たに報告されたLSS遺伝子変異の発現ベクターを作製し、2021年度および2022年度と同様にHEK293T細胞での過剰発現系において発現・機能解析を行った。その結果、解析したいずれの変異型LSS蛋白が小胞体内に主に発現し、ラノステロール産生能の低下をきたすことが示された。また、ヒトケラチノサイト由来であるHaCaT細胞でも検討を行ったが、ほぼ同様の結果が得られた。結局、少なくとも培養細胞での過剰発現系においては、変異型蛋白間で明らかな性質の違いは認められないと結論付けた。 続いて、2022年度に解析した新規の家系に同定された疾患原因候補遺伝子について、ヒト毛包での発現パターンを免疫染色法で解析した結果、主に毛髪のpre-cortex~cortexの核内での発現が認められた。 さらに、2023年度に山口大学医学部附属病院を受診した頭部に外毛根鞘嚢腫が多発する家系について遺伝子解析を行った結果、脂質関連遺伝子の1つであるPLCD1に興味深いバリアントがヘテロ接合型で同定された。外毛根鞘嚢腫の組織から抽出したゲノムDNAとtotal RNAを用いてさらに詳細な解析を行ったところ、germlineレベルでバリアントを有するアレル(リスクアレル)に別のバリアントが導入されていることがわかった。つまり、いわゆるsecond hitがリスクアレル側に生じていることが証明された。また、腫瘍組織中での野生型アレルと変異型アレルの量はほぼ同等だったことから、loss of heterozygosityは生じていないことが示唆された。これらの結果から、脂質関連遺伝子が毛包系腫瘍の発症にも関与していることがさらに明らかになった。
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