研究課題
視床下部室傍核に存在するコルチコトロピン放出因子(CRF)産生ニューロンは正中隆起のみならず様々な脳内領域に直接投射している.したがって,CRFは神経内分泌ペプチドとしての生理機能ばかりでなく,脳内で神経伝達物質,または,神経修飾物質として生理的意義を担っているものと考えられる.脳内CRFニューロンが脳内で果たす生理的な役割を明らかにするためには,これらの一次投射領域より下流の神経路を明らかにし,最終出力に至る脳内回路を同定することが必要である.この目的を達成するために,我々はCRF受容体1 (CRFR1) 遺伝子,または,CRF受容体2(CRFR2)遺伝子にCreリコンビナーゼをノックインしたマウス(CRFR1-CreおよびCRFR2-Cre)を開発した.2021年度は,①これらのマウスを系統化し,②系統化されたマウスを用いてCRFR1およびCRFR2発現ニューロンの脳内分布を同定した.①の系統化においては,まず,CRFR1-CreおよびCRFR2-Creのゲノムからネオマイシン耐性遺伝子(Neo)を除去した.次に,Neoを除去するために野生型マウスと交配し,ゲノムに挿入されたFlp遺伝子を有するアレルを野生型アレルに置き換えた.②の形態学的検討においては,CRFR1-Cre,または,CRFR2-CreマウスとCre依存的緑色蛍光タンパク質(GFP)発現レポーターマウスを交配し,得られたマウス脳を用いて免疫蛍光法によりGFP発現ニューロンの分布を検討した.従来in situ hybridization法や免疫組織化学を用いて報告されたCRFR1およびCRFR2発現ニューロンの分布とほぼ一致した結果が得られた.
2: おおむね順調に進展している
マウスの系統化が順調に進んだことにより,これらのマウスを用いて行われる予定の次年度の実験において信頼性の高いデータを得ることができるようになった.まず,マウス作製時にES細胞のスクリーニングに用いられたネオマイシン耐性遺伝子(Neo)をFlp deleterマウスと交配しNeoをこれらのゲノムから削除した.次に,野生型マウスと交配を行い,Flp遺伝子を有しない野生型アレルを持つ個体を選別した.これらのマウスとCre依存的GFP発現レポーターマウスの交配により,CRFR1,または,CRFR2発現ニューロン選択的にGFPが発現されたマウスを得られた.こらの脳を用いて,CRFR1,または,CRFR2発現ニューロンの脳内分布を同定することができた.従来用いられてきた免疫組織化学やin situ hybridization法と比較し,RFR1,および,CRFR2発現ニューロンのの脳内分布がより正確に同定された.
次年度からは作製されたCRFR1-CreおよびCRFR2-Creを用いて形態学的および生理学的な実験を行う.まず,CRFR1-CreおよびCRFR2-Creの脳内にCre依存的GFP発現ウイルスベクターを注入し,これらのニューロンの脳内投射野を順行性に明らかにする.次に,Cre依存的チャネルロドプシン2発現ウイルス(AAV)ベクター,または,Cre依存的陰イオン性チャネルロドプシン2(ACR2)発現AAVベクターをCRFR1発現ニューロン,または,CRFR2発現ニューロンの存在する脳内部位に注入し,光ファイバーを用いて青色光を照射しCRFR1発現ニューロン,または,CRFR2発現ニューロンを選択的に刺激,または,抑制する.これらの実験の結果,CRFR1発現ニューロン,または,CRFR2発現ニューロンの機能が解明される.まず最初に,延髄孤束核に存在するCRFR2を標的に,これらが摂食行動に及ぼす影響を検討する予定である.
2021年度末に遺伝子改変ラットを購入したが,それに伴う費用(輸送費,検疫費,など)の見積り金額が事前に正確にわからなかったため少し余裕をもって予算を計上したために残額が生じた.
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件)
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