研究実績の概要 |
肥満が心血管病リスクであるのと同様、筋肉量減少がその本体であるサルコペニアは、心血管病発症のリスク要因となる。インスリン不足は糖尿病の発症原因となり、また筋肉の蛋白同化障害を惹起しサルコペニアの原因ともなる。しかしながら、インスリン不足からサルコペニアが生じる機序の代謝学的観点からの解明と、原因に則した治療法の開発は、未だ不十分である。我々はこれまで、栄養素の代謝がサルコペニアの進展に与える意義を検討するため、加齢マウスなどのサルコペニアモデルマウスにおいて、メタボローム解析を用いて、骨格筋内の代謝産物(糖, アミノ酸, 脂質とそれらの代謝産物)の変容と、サルコペニア進展の関連を検討してきた。その結果、サルコペニアの進展が筋肉構成蛋白の基質である、アミノ酸の代謝と密接に関連することを見出してきた。本年度までの検討で、著明なサルコペニアをきたす、ストレプトゾトシン(STZ)投与によるインスリン欠損1型糖尿病モデルマウス(STZマウス)の骨格筋において、代謝産物を可視化する質量分析イメージングを実施し、白筋, 赤筋のサルコペニア進展と関連したアミノ酸の変容を検討した。その結果、血糖値400~600mg/dlの高血糖をきたしたSTZマウスの筋肉では、白筋, 赤筋ともに分枝鎖アミノ酸(BCAA)であるバリン, ロイシン, イソロイシンの増加が、顕著であった。BCAAを筋肉に取り込むことのできるL型アミノ酸トランスポーター(LAT)について、赤筋と白筋における発現量を調べたところ、糖尿病マウスではLATの発現がLAT1,2,3すべてにおいて減少していた。このことより、糖尿病マウスではBCAAの取込低下にもかかわらず筋肉分解が亢進することで、骨格筋BCAAが増加すると示唆された。
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