研究課題/領域番号 |
21K08841
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
新美 清章 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (50467312)
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研究分担者 |
古森 公浩 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (40225587) [辞退]
坂野 比呂志 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (80584721)
児玉 章朗 愛知医科大学, 医学部, 教授 (10528748)
川井 陽平 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (80802347)
池田 脩太 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (90836503)
杉田 修啓 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20532104)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 腹部大動脈瘤 / 破断応力 / 空隙率 |
研究実績の概要 |
腹部大動脈瘤は一般的に瘤径が大きくなるほど破裂リスクが高くなるとされているが、小さくても破裂することもあり、壁の脆弱化が破裂リスクであることが疑われる。実際、これまでの瘤壁の強さにはばらつきが大きく、どのような血管壁が破壊されやすいかは不明であった。そこで、瘤部では正常部よりも空隙率が高く、実質の壁部分が小さいために、引張強さが減るとの仮説をたて、これを検証した。単軸引張試験から破断応力を、X線CT像から空隙率を求め、瘤壁と正常血管壁で比較した。 本年度の実績:名大生命倫理審査委員会の許可(承認番号:2023‐0024)を得た。ブタ血管から作製した試料をControl群とし、ヒト瘤血管から作製した試料をAneurysm群とした。引張試験は小型卓上試験機で行った。空隙率は試料のCT画像を二値化し血管壁実質部と空隙部に区別し、それをもとに空隙率を算出した。 破断応力はAneurysm群で約0.6 MPa、Control群で0.8 MPaであり、有意差は認めなかったものの、Aneurysm群で低値な傾向であった。X線CT像での観察では、Aneurysm群はControl群よりもX線CT像での輝度値が低い傾向にあった。よって、Aneurysm群での密度が低いことが考えられた。また、瘤の一部試料では高輝度の石灰化領域が散見された。空隙率はAneurysm群で約10%、Control群で約1%であり、Aneurysm群では有意に空隙率が高かった。よって、動脈瘤には多くの空隙があることが示された。また、血管内腔と結合した空隙も見られた。 一方、空隙率と破断応力の相関係数はAneurysm群内で0.35、Control群内で0.44、全試料内で-0.18だった。検定の結果、いずれにも有意な相関は認められなかった。したがって、空隙率が直接瘤壁の脆弱化と結びついたとは言えなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動脈瘤群ではコントロール群に比べて瘤壁の空隙率が有意に高いことを示すことができた。一方、空隙率が瘤壁の強さを示す破断応力との直接の有意な相関関係はなかった。他の要素の関連も疑われる。
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今後の研究の推進方策 |
大動脈瘤壁では空隙が増加することが判明した.空隙には血管周方向と軸方向に拡がり,半径方向にはあまり広がらない傾向にある空隙と,周方向と半径方向への拡がりが同程度なものの,軸方向に長く伸びる傾向にある空隙があった。空隙の空間構造を詳細に解析し、力学的な構造を検討することが有効と考えられる。 本研究では空隙率と破断応力との有意な相関は見られなかった。ただし、本研究で評価した空隙率は、瘤壁全体における平均的な空隙量になる。破壊に影響するのは全体の平均値ではなく、局所空隙が影響することもありえる。特に、試料内には、空隙に加えて局所的な石灰化領域も散見されているため、瘤壁内の弾性率が領域によって異なり、応力集中が生じて比較的低負荷でも破断することもありえる。実際、Aneurysm 群の試料では破断応力の個体差が大きい。今後は,データを増やして信頼性を高めるとともに,局所的な構造の破壊への影響を検討することも必要と考えられる。さらに、個体差の中では石灰化領域の割合や生体内での血圧、瘤径など、破裂に影響を与えうる因子がまだあるため、それらの影響も明らかにする必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
A.次年度使用が生じた理由:現在、試料を用いて破断応力や空隙率と、患者本人の術前CT値との関連性を調査しているが、まだ10例ほどの症例では明確な関連は見受けられなかった。このため、より多くの試料を積み重ねて解析を進めることで、より明確な関連性を見出すことが期待される。また、空隙率が高いほど破断応力(瘤の強さ)が低くなるという仮説を検証したが、現時点ではその傾向が確認できなかった。この背景から、試料の引張試験の方法に改良が必要である可能性がある。次年度ではさらに試料を追加し、異なるアプローチでの実験を模索する予定である。 B.使用計画次年度では、より多くの試料を収集し、破断応力と瘤内血栓の割合、血栓のCT値(HU)との関連性をさらに詳細に解析する。また、破断応力と空隙率の関係をより正確に評価するため、試料引っ張り試験の方法を見直し、工夫を加える予定である。新たな試験方法を取り入れることで、より有益なデータを取得することを目指す。
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