癌性髄膜炎という治療困難で非常に予後不良な疾患に対する幹細胞治療の確立を目的とした研究を遂行した。なかでも中枢神経系に転移しやすい癌種であるエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2受容体が陰性であるトリプルネガティブ乳癌の癌性髄膜炎について、これまでに有効性を報告してきた上皮成長因子受容体(EGFR)と細胞死受容体(DR)の両方をターゲットとしたタンパク質を分泌する幹細胞治療へのさらなる相乗効果を期して他の薬剤の組み合わせを検証し、有望な薬剤のセレクションを行った。その際とくに免疫治療との組み合わせの検証を行うため、シンジェニック癌性髄膜炎マウスモデルの作成に取り組み、臨床のシナリオを反映した実験に有用な動物モデルの作成することができた。さらに乳癌に限らず他の癌種でも治療効果の検証を行った。そのなかで中枢神経系への転移の頻度の高い癌種である非小細胞肺癌においてもEGFRとDRをターゲットとしたタンパク質を分泌する幹細胞が有効であることを確認した。さらに、悪性黒色腫の癌性髄膜炎に対し、腫瘍溶解性ヘルペスウイルスと顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、免疫チェックポイントPD1に対する単鎖可変領域フラグメントを分泌する幹細胞による治療が有効であることを確認した。これらの一連の研究を通じて、癌性髄膜炎に対する幹細胞治療が、幹細胞が有する腫瘍に集まる特性(腫瘍向性)が非常に発揮されやすい点、一度の投与で髄腔内で持続的に治療物質を分泌し続けることができる点においてアドバンテージを有するという普遍的な事実が示された。本研究により、幹細胞治療が今後癌性髄膜炎に対する新たな治療選択肢となりうる可能性を有していることが示された。
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