肉腫は化学療法や放射線治療に対する感受性は低く、再発や遠隔転移を発症した肉腫患者の予後は極めて不良である。肉腫細胞はPAI-1を高発現して、自らの生存、浸潤、転移能などを担保する。申請者らは新規PAI-1阻害剤TM5614が肉腫細胞株増殖を阻害するが正常細胞増殖には影響を与えないことを見出した。本研究では更に発展させ、新規PAI-1阻害薬を用いた新規肉腫治療の可能性を検証することを本研究の目的としている。本年度にはアポトーシス活性に対するTM5614の影響をTUNEL法、Caspase3活性解析を用いて解析した。その結果、TM5614は肉腫細胞として用いたU2OS細胞、および正常細胞のコントロールとして用いた滑膜間葉系細胞ともにアポトーシスを誘導しないことが明らかとなった。次に申請者らは、フローサイトメトリー解析法を用いて、細胞周期に対するTM5614の影響を解析した。その結果、TM5614はU2OSに対してG2/S arrestを誘導することが明らかとなった。一方、滑膜間葉系細胞の細胞周期には影響を与えなかった。Q-PCR法による解析の結果、TM5614処理後のU2OS細胞では、p53とp21Waf1/Cip1の発現が有意に上昇したのに対し、MSCではそれぞれの発現に変化は見られなかった。これらの結果は、TM5614の効果が、少なくとも部分的にはp53およびp21Waf1/Cip1の活性化によって媒介されることを示している。p21Waf1/Cip1はサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の阻害剤であり、p53の転写ターゲットである。p53はDNA損傷により活性化され、p53の標的遺伝子の一つであるp21Waf1/Cip1の発現が増加し、その結果、細胞はG2-M arrestに移行したものと考えられる。
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