腰部脊柱管狭窄症は高齢者の歩行障害を引き起こす代表的疾患である。黄色靭帯の肥厚が主原因であり、力学負荷が関与すると考えられているが、その分子メカニズムは未だ十分解明されていない。近年、糖尿病や加齢性慢性疾患の原因となる因子として終末糖化産物(Advanced Glycation End-products; AGEs)が注目されており、糖尿病患者は腰部脊柱管狭窄症の有病率が高いことから、AGEsは黄色靭帯の肥厚にも関与している可能性がある。本研究の目的は、糖尿病動物モデル及び培養細胞を用いてAGEs及び力学負荷が黄色靭帯肥厚に与える影響とそのメカニズムを解明することである。In vivoにてAlloxanを用いた糖尿病ウサギモデルを確立したが、金属プレートによる力学負荷を追加すると、ほぼ全例でインプラント周囲の感染を認め、飼育継続が不可能であった。そこで、インプラントを使用せずに黄色靭帯肥厚ラットモデルを作製することを目指し、ラットの第4腰椎棘突起と第5腰椎棘突起、第6腰椎と第1仙椎棘突起をそれぞれナイロン糸で固定、第5/6腰椎間の棘間靱帯を切除し、第5/6椎間関節を部分切除することで、第5/6腰椎間に力学負荷を集中させるモデルを作製した。しかし椎間関節の切除量にばらつきが認められ、術後8週時点では黄色靱帯の肥厚はみられなかった。力学負荷増強のための工夫や手術手技の安定化、およびさらなる長期モデルでの検討が必要であると考えられた。一方Streptozotocinを用いた糖尿病モデルラットにおいて黄色靱帯や周辺脊椎組織の免疫組織化学染色を行ったところ、AGEsの蓄積が確認できた。今後は上述の黄色靭帯肥厚ラットモデルの確立に加え、同モデルに糖尿病を付加した際に力学的ストレスが集中する椎間にて黄色靭帯肥厚がより促進されるかを調査する方針である。
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