唾液腺癌は頭頸部癌のうち3-5%を占め、多彩な組織型を示すが、それぞれの組織型の症例数は限られているため、発癌過程における融合遺伝子の機能に関する研究は進んでいない。唾液腺に生じる硝子化明細胞癌では、12番染色体と22番染色体の転座による融合遺伝子EWSR1-ATF1が93%の症例にみられるとの報告があるため、融合遺伝子産物が異常な転写活性を有し発癌を誘発することが想定される。本研究課題では対象とするEWSR1-ATF1をTet-on systemを用いて全身に発現させたモデルマウスでは軟部組織に腫瘍形成が認めらた先行研究報告があるが、 3ヶ月の観察期間では唾液腺を含め、他部位には明らかな腫瘍形成は見られなかった。唾液腺における硝子化明細胞癌の発生に関する EWSR1-ATF1の役割を解明するには唾液腺特異的にEWSR1-ATF1を発現し、他部位では当該融合遺伝子を発現しない条件特異的遺伝子改変マウスを作製することが理想である。 Creloxpシステムによる条件特異性の賦与は、1)組織特異的プロモーターの下流にCreリコンビナーゼ遺伝子をつけた外来遺伝子(MMTV-Cre、lama-Cre)、2)高発現が期待できるプロモーター下流に2つのloxP配列に挟まれた転写停止配列、さらにその下流に目的の遺伝子をつなげた外来遺伝子(EWSR1-ATF1)を導入することによる。このシステム下では、組織特異的プロモーターが働く部位ではCreの働きでloxP配列間の転写停止配列が欠損し、その下流に位置する目的遺伝子が高発現するが、組織特異的プロモーターが作動しない部位ではCreが働かないため転写停止配列が機能して目的の遺伝子は発現しない。このシステムを用いてEWSR1-ATF1融合遺伝子の唾液腺特異的遺伝子改変マウスを作製し、現在表現形質の解析中である。
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