研究課題/領域番号 |
21K09735
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西脇 優子 沖縄科学技術大学院大学, 神経発生ユニット, グループリーダー (20360620)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Drp1 / 細胞死 / チトクロムC / ミトコンドリア / BNip1 |
研究実績の概要 |
β-SNAP変異体の視細胞死は、細胞死誘導を担うBH3ドメインを持ったSNARE蛋白質であるBNip1を介している。我々は予備実験でDrp1をモルフォリノでノックダウンすることで、β-SNAP変異体の視細胞死が抑制されることを確認しているが、胚への操作無しにDrp1を抑制するため、β-SNAP変異体をDrp1変異体と組み合わせ、細胞死が抑制されるかを検証した。まず、Drp1変異体の表現型を検証した。受精後3週間までは、野生型と形態的に顕著な違いがなく生存していたが、その後、Drp1変異体の発育が野生型に比べて遅れ、成魚まで育たない致死性であることが確認された。また、Drp1変異体との二重変異では、モルフォリノの結果と相違して、細胞死が抑制されないことが判った。そこで、Drp1変異体中のDrp1蛋白の発現を抗体で調べた結果、母性由来のDrp1が、細胞死が起きる時期まで残っていることが判った。モルフォリノは母性由来のDrp1も抑制することから細胞死の抑制が行われると考えられる。Drp1変異体は致死性のため、母性由来のDrp1を除くためにDrp1変異体メスを親として使用することが不可能である。そのため、Drp1の抑制には引き続きモルフォリノを用いる。 細胞死の過程で細胞内小器官を可視化するため、既存の系統の導入と標的分子を発現するトランスジェニック系統の確立を行っている。ミトコンドリア外膜を赤蛍光で標識する系統を導入し、β-SNAP変異体が視細胞死を起こす過程でのチトクロムCの局在を調べたところ、細胞死が活発に起きる受精後72時間にはミトコンドリアから流出しているのが確認された。これらより、β-SNAP変異体が視細胞死において、Drp1が、ミトコンドリアからのチトクロムCの流出に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存のDrp1変異体を用いた検証は完了した。b-SNAP変異体の視細胞死におけるDrp1の役割の検証に、この変異体を用いることは出来ないが、母性由来のDrp1が受精後2日目まで視細胞で機能し得ることが推察された。 β-SNAP変異体へミトコンドリアを可視化する系統を導入することで、細胞死に至るまでのミトコンドリアの変化を観察する系が確立できた。また、カルシウムの細胞内濃度変動を観察するため、カルシウムセンサーであるGCaMP7aを熱ショックで発現するTg[hsp:Gal4];Tg[UAS:GCaMP7a]を導入したが、レンズでのGCaMP7aのシグナルが強く、網膜側の観察に影響するため、ドライバーをhsp:Gal4から網膜で発現するRx:Gal4もしくはCrx:Gal4に置き換えた系統も作製した。現在、発現の検証を行っているが、Rxプロモーターはβ-SNAP変異体の細胞死が起きるより以前から網膜全体で発現しているが、細胞死が顕著に見られる受精後3日目には発現が落ち始める。一方、Crxプロモーターは、受精後2日目にはまだ一部の視細胞でしか発現が見られず、網膜全体の視細胞で発現が確認出来たのが受精後3日目のため、観たい現象とその時期によって使い分ける必要がある。 BNip1の細胞内局在を観察するため、Tg[hsp:EGFP-BNip1a]を作製し、複数の系統を確立した。野生型で分布を検証したところ、ミトコンドリアとの核の周辺など、小胞体上の位置に分布していることが確認出来た。現在、ミトコンドリア可視化系統と組み合わせたβ-SNAP系統を作出しており、細胞死の過程でBNip1の局在がどう変化するか、観察を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
我々はDrp1をモルフォリノでノックダウンすることで、β-SNAP変異体の視細胞死が抑制されることを観察している。β-SNAP変異体の視細胞死では、チトクロムCがミトコンドリアから細胞質へ放出されていた。このことは、Drp1がチトクロムCの放出に関わっていることを示唆している。通常、チトクロムCを内包するミトコンドリアの内膜のクリステの袋状構造のゲートはOPA1によってを閉じられている。小胞体からミトコンドリアへのカルシウムの流入が起きると、OPA1はOMA1により分解され、その結果、クリステのゲートが開くことが報告されている。そこで、次は、OPA1が関与しているかを検証する。OPA1の強制発現を行い、クリステの袋状構造の開放を抑えた場合に、ミトコンドリアからチトクロムCの放出が抑えられるか、細胞死は抑えられるのかを検証する。また、細胞死に伴う細胞内のカルシウム濃度の変化をGCaMP7aを用いて観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はCOVID-19により殆どの学会がオンライン開催となったため、旅費が掛からなかった。また、以前の市販品Drp1抗体が廃盤になったため、Drp1カスタム抗体の作製を予定していたが、新しく市販品で使用可能なものが見つかったため、初年度での大きな出費が抑えられた。今年度、引き続き、モルフォリノの購入、及び市販の抗体購入などに使用する予定である。 また、トランスジェニック系統が順調に採れているため、昨年後半にスクリーニング要員をパートタイムで雇用したが、今年度も引き続きスクリーニングを行って頂く予定である。
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